倒れる一歩手前まで行かなくていい
限界まで自分を追い込んで小説を書きたい気持ちはいつもあるのですが、さすがに五十歳を過ぎると、体力的にもたなくなってくる面が確実にあります。
わたしは悪いことに、空腹時に筆がはかどる。夕方の四時、五時といったあたりに、もっとも頭のほうに血がいっている。体力的にこれ以上やったら危ないような、意識が遠くなっていくようなことがあるので、そこはさすがに気をつけるようになりました。
それこそ三十四歳で他界した父の例があるし、小さいころから息子の体調を気にかけてくれた母の姿もよぎります。徹夜をしたこともなくて、それはやはりどこか身体のことが心配だからです。
そのぶん昼型の作家として、やることは日中にすべてやり終えるようにしています。そして食事もしっかりしたものを摂ることを心がけて、折り目正しい生活を送っているつもりです。
身体に気を遣いながら、倒れる一歩前まで行くのは怖いので、四歩か五歩くらい手前まではやろうという意識です。
そうやって書き続けていて思うのは、やはり体力の重要性です。自分の食べるものくらい自分で料理したほうがいいとこの本で先に述べましたが、まともな食事を摂るのは基本中の基本。肉、魚、野菜、炭水化物、バランスよく食べることを心がけています。
仕事に不可欠なのは基礎体力
あとは日常生活や家事のレベルですが、身体をきちんと動かすこと。ほぼ毎日軽いストレッチを行い、一時間ほど散歩をこなす。ある程度は身体が動くようにしておかないと、小説にも影響が及びかねませんから。
わたしが欲している体力というのは、運動能力のことではありません。重いウエイトを持ち上げられたり、マラソンを完走できたりする必要はない。基本的に毎日仕事ができて、疲れはもちろん出るけど、また次の日にはきちんと仕事ができ、倒れずにやっていけるという基礎体力があればいい。
どれほど自分がその道を行きたいと思っても、体力に無理がきてしまえば、結局かなわないし、それは向いていないということになってしまいます。
人間の性格は精神や脳ではなくて、腸など内臓の状態が決定しているという説もあるらしいですが、たしかにそうかもしれないと思わせます。体調を整えておくことは、充実した仕事をこなすうえで不可欠です。
逆に言えば、向いている仕事をしていると、たぶん体力も保たれるのでしょう。体力が続かなくなるということは、その仕事を考え直す理由にもなります。

