「稲田さんはいつも売るための積極的な提案をしてくれます。例えば、2010年は弊社創立40周年でしたが、マスコットの鯨のやまちゃんを入れたオリジナル黒ラベルをつくってもらいました。大手メーカーではなかなかできないことだと思うのですが、駈けずり回って実現してくれました。ふだんからお店によく顔を出してくれて、現場の店長や各エリアを統括する地区長に信頼されているんですね。やっぱり人間ですから、そういう会社を応援したくなります」(千葉)
稲田の奮闘もあって、やまやにおけるサッポロのシェアはサントリーの上をいく3位をキープしている。
取材のさなか、運転する稲田に、ひっきりなしに各地区長から電話がかかってきた。その度、律儀に車を路肩に停めて電話を折り返す。なるほど、成績を上げる営業マンとはこうしたものかと感心した。
「売るものがあって、初めて営業マンがいる。売るものがないのはとても辛かった」
営業車のなかで、彼がふと漏らした言葉には、震災から3ヵ月の足跡が刻まれていた。
本社のトップもその思いは一緒である。
「商品がつくれない、運べないなかで、改めてメーカーとして商品の大切さやブランドを意識するようになりました」
そう語るのはサッポロビール取締役常務営業本部長の尾賀真城だ。
「お客様から支援の声や励ましの声を多数いただきました。『待っているから』と。お客様に支えられていることを強く認識しました。震災後は、供給能力を考えて3ブランドに絞りました。黒ラベル、ヱビス、麦とホップです。現在は看板である黒ラベルが好調に推移しています」
震災後(5月)の業界全体のビール類の課税出荷数量が昨年比91.4%のなか、黒ラベルの販売数量はほぼ100%を維持、缶では118%、西日本では130%というように勢いが戻ってきた。
この流れを受けて、夏に2つの大きなキャンペーンを仕掛ける。1つはメジャーリーグのTシャツが当たる3万人規模のキャンペーン。もう1つが7月20日に新発売される「アイスラガー」。本来であればもう少し早いタイミングでの仕掛けを考えていたのだろう。実際、発売中止も考えたというなかでの決断が、どんな結果をもたらすだろうか。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時