「うちは祭りに関係ない」じゃもったいない

寄付金リストには、メイドカフェやコスプレ系飲食店の名がまったく見当たらなかったのです。寄付金集めの際に店舗を選んだのかと町会の人に尋ねてみると、町内すべての店舗に訪問し寄付をお願いしたそうです。ところが、メイドカフェやコスプレ系飲食店には「うちはお祭りには、関係ない」とすべて断られたというのです。その中には普段から秋葉原の活性化を謳って積極的に活動している店舗もあったので、意外でした。

秋葉原のように、店舗に訪れるほとんどの客が、地元住民ではなく外からの訪問者である場合、店舗と住民の利害にずれが生じます。たとえば、店舗側は夜遅くまで営業して大きな音も出したいが、住民からしてみれば迷惑に過ぎない。そこで対立も起こり得るのです。メイドカフェやコスプレ系飲食店が、風俗営業店舗のような派手な看板を出し、人目を引きやすい格好で若い女性が客寄せしているのを見ると、メイドカフェやコスプレ文化に馴染みがないぶん、嫌悪感だけを持つ地元のご婦人方が多いようです。そうすると、店舗側も普段から「白い目で見られている」という感情を抱くようになります。

町会の側が祭りの時にすべての店舗に頭を下げて協力を求めるのは、年々高齢化し人口が減り続ける氏子としての地元住民にとって、町内の神輿を守ることに危機感を持っているからです。その時に、店舗の側が「意趣返し」をするのは勝手でしょうが、相手が困っているとき、悩んでいるときに、ほんの少し手を差し伸べるだけで、関係を修復するきっかけとなり得るのです。

ある飲食店では、神輿を担ぐ人たちに振舞い酒を提供していました。すると神輿を先導していた町会の人が店名を連呼し「足を向けて寝るなよ!」と担ぎ手たちに叫んでいました。万が一、この店舗の今後の事業展開が地元住民の利害と相容れない場合でも、このような神田祭が生んだ縁さえあれば、解決に向けた話し合いの場が設けられるはずです。そうすることによって、地域の活性化につなげることができるのです。

今回の神田祭は、秋葉原でビジネスを行う店舗にとって、地元住民に手を差し伸べる4年振りに訪れたチャンスだったと私は感じています。寄付金や振舞い酒でなくてもよい。神輿が町内を回る際に、店前に出て拍手や声援を送ってくれるだけでも、どれだけ嬉しく思い、その店舗に好感を持ったか。神輿を担ぎながら、私は実感していました。次のチャンスは2年後です。自分のためでも相手のためでもなく、秋葉原のためと思って、普段から地元住民との間に確執がある店舗ほど、この機会を活かしてほしいと願っています。

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