もう1つの力であるコーチングについても、「部下から相談されたら適切に答えているし、重要な場面では必ず同行し部下をサポートしているので、コーチングができている」と思い込んでいる。ところが相談を受けてから答えるのではコーチングとは言えず、単なる「返答」にすぎない。

コーチングができているか、できていないかは、簡単な質問でわかる。マネジャーに対して、「あなたの部下の“実践の障壁”は何ですか」と聞くと、できているマネジャーは、その内容と自分が取った対応についてすらすらと答えられるものだ。

マネジメントは、部下の活動実態を熟知することから始まる。部下に起こりうる問題については、誰よりも先に気づき、具体的なアドバイスをすることが大切だ。部下が問題に直面し、相談に来てからでは遅い。日々の営業活動に追われる営業担当者に目の前の案件しか見えないのは仕方がないが、マネジャーまでが刈り取り作業に気をとられ、種まきの活動をおろそかにしていてはいけない。

年間の売り上げをグラフにしたとき、グラフが波打っている営業部門では、上司が刈り取りだけを重視し、組織として種まきを怠っている危険性がある。たとえるなら、1回打って1回休む「カスタネット」のような営業活動が行われている可能性が高いのだ。さらに、部下の活動ではなく成果だけを見てマネジメントをしている可能性があり、継続的な成長は望めない。日報や日々のコミュニケーションによって部下の活動を正しく把握し、中長期目線で案件を捉えることが必要である。

(構成=野崎稚恵)