熱中症は“夏の病気”ではない
「先週、気温が25度に及ぶような暖かい日に、我が家でも93歳の義父が浴室の暖房をいつものようにマックスで付けており、危うく熱中症になりかけました」――総合診療科の名医・生坂政臣氏は去る3月下旬の“ヒヤリ体験”をそう振り返る。
かつては夏の病気だった熱中症が、今や春先にかかってもなんら不思議のない病気に変化してしまった。
原因は気候変動に伴う気温の上昇だ。この3月22日から28日、生坂家がある埼玉県では、夏日(最高気温25度以上)が2回、それに迫る23.6度や24.6度の日4日もあった。まさに冬から初夏へ、季節が一足飛びで進んでしまった感じだ。
思えば気象庁が統計を開始した1898年以降、全国的に史上最も暑い1年となった2024年、4月の平均気温は平年より2.67度も高く、過去の最大値を大幅に上回った。特に下旬には、広い範囲で30度以上の真夏日を観測し、多くの地点で、4月としては日最高気温の高い方からの歴代1位の記録を更新している。
前年の2023年も歴代で最も暑い1年だったことから、2024年4月には、「春も熱中症に注意」と自治体や医療機関が呼び掛けるようになった。今後は、「熱中症対策は春から」が常識になるかもしれない。
30度以下でも要注意な理由
ただ、いくら暑いとはいえ、「25度前後で熱中症になるのは特殊なんじゃないか」と思う人も少なくないだろう。そこには、春先ならではの季節特有の理由がある。
「春先は暖房器具の使いすぎと不要な厚着に注意すべきだと思います。高齢者は冷房を控える傾向があっても、寒がりになるので、暖房の使用は積極的で、むしろ過剰使用となりがちです。また、高齢者はこまめに冬服を脱ぎ着せず、着た切り雀になるので、そのような日が2、3日続けば熱中症になることも容易に想像できます。乳児でも心配性の母親の過剰な着ぐるみによる熱中症はしばしば経験します」(生坂氏)
春の気候は三寒四温と言われ、寒暖差が激しい。そのため4月に入っても暖房器具は出しっぱなし、厚手のコートを仕舞うタイミングがないという人は少なくない。一日の気温変化に対応するのは、若くて元気な人でも「失敗した」と後悔する日があるだろう。
まして高齢者の場合には、朝からストーブを付けて、気温が上昇してきても消さず、衣服を着込んだまま、汗を流しながら昼寝して、具合が悪くなる可能性は十分あり得る。じわじわと熱くなるため、「茹で蛙」のように熱さから逃れるタイミングを逸してしまうのだ。
また、「乳児の過剰な着ぐるみ」は、特に“ばあば”と同居している家庭で起こりがちだ。筆者が子どもを保育園に預けていた頃、暖かい日に厚着して真っ赤な顔で汗びっしょりの赤ちゃんは、大抵おばあちゃんが迎えに来ていた。孫に風邪を引かせたくない「ばあば心」である。