トランプ米大統領はなぜ自国で支持されるのか。『西洋近代の罪 自由・平等・民主主義はこのまま敗北するのか』(朝日新書)を上梓した社会学者の大澤真幸さんは「相容れないはずの二つの勢力がトランプ支持層に共存している」という――。

二つのタイプが混在するトランプ支持者層

トランプを支持する勢力、トランプ運動を構成する勢力を見ると、そこには明らかに矛盾する、二つの傾向が混在していることに気づく。

「アメリカ・ファースト」とか、「MAGA(Make America Great Again アメリカを再び偉大に)」といった標語が示しているように、トランプは外国人嫌いで、ファシストを連想させるナショナリストである。彼は移民の排斥や国外追放を叫び、移民によってアメリカ人の純血が脅かされているかのように主張する。トランプのこうした主張に、右翼的な傾向のあるポピュリストたちが共感し、賛同している。本書のここまでの論述の中で「トランプ支持者」という語で念頭に置いてきたのは、主として、この種のタイプの支持者たちである。

しかし、トランプ支持者の中には、このタイプに含めることがどうしてもできない勢力がある。電気自動車のテスラを起こし、X(旧Twitter)を買収した大富豪の実業家イーロン・マスク。マスクは、大統領選挙で、トランプを熱烈に応援し、巨額の寄付をした。今や、彼はトランプの最側近のひとりであり、政権の要職に就くことも決まっている(2025年2月時点)。マスクに代表されるテクノ・リバタリアンの多くがトランプを支持しているのだ。

ナショナリストとテクノ・リバタリアンの対立

テクノ・リバタリアンとは、(たいてい)IT関連企業のエリートで、政府による規制や監視を最小化した市場の自由を強く擁護する者たちである。

トランプ自身も、基本的にはリバタリアンである。LGBTQ+やジェンダーへの配慮等の道徳的な規制を外した市場の荒々しい競争は、トランプの好むところである。

マスクは、トランプ政権では、「政府効率化省(DOGE)」を率いることになっている。マスクが政府の効率化に熱心なのは、そしてこのポストが特に政権の要のひとつだとされているのは、彼らが基本的には政府の(市場への)介入が不要だと思っているからである。彼らは、政府の介入なき自由を強く支持しているのだ。

トランプ陣営に二つの勢力が共存している。ポピュリスト的なナショナリストとテクノ・リバタリアン。両者は似ているのか? 全然似ていない。それどころか、両者は正反対を向いていて、完全に対立してさえいる。

たとえばテクノ・リバタリアンは、能力主義者なので、有能な移民や外国人を大いに歓迎している。そもそもイーロン・マスク自身も、南アフリカからの移民である。これはもちろん、移民排斥を望むナショナリストたちにとっては、とうてい受け入れられないことである。実際、両者の対立は、顕在化しつつある。

2025年2月11日、ワシントンDCのホワイトハウスの大統領執務室にいるイーロン・マスク氏(中央)と息子のX氏(左)、ドナルド・トランプ米大統領(右)
写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ
2025年2月11日、ワシントンDCのホワイトハウスの大統領執務室にいるイーロン・マスク氏(中央)と息子のX氏(左)、ドナルド・トランプ米大統領(右)