マスクなしで深呼吸までさせるなんて…
そしてアレジオン(エスエス製薬)。これには俳優の伊藤沙莉さんが出演。鼻水をすすりつつ翌日の旅行を心配しながら夜に服薬。すると翌朝にはすっかり症状が消え、「春を楽しめるっていいわー」と屋外でも花粉に悩まされずに旅行を満喫できるという構成だ。伊藤さんには屋外でマスクを着けさせないだけでなく、ご丁寧にも満開の桜の下で、鼻腔から胸いっぱいの深呼吸までさせている。
さて、これでもう皆さんは私が何を言いたいのかおわかりだろう。これらのCMには、自社製品の効能・効果を強調すべく、あたかも薬さえ飲めばノーマスクでも花粉症状に悩まされずに生活できると視聴者に思わせかねない表現・構成が採用されているのである。
もっともこの私の指摘は、花粉症のベテランからすれば「CMでわざわざ言われなくとも花粉症にマスク必須は常識」、「演出にいちいち目くじらを立てるなんてくだらない」と、取るに足らないものかもしれない。せっかく起用した有名俳優の顔の下半分をマスクで隠してしまうなど、広告業界の常識からいってもあり得ないという意見もあるだろう。
コロナより断然大きい「花粉の粒子」をガードする
だがひと言、「花粉症対策は薬だけでなく、マスクの適切な使用をはじめとした花粉を体内に取り込まない工夫も重要」といった文言を、出演している俳優に言わせてもいいのではなかろうか。むしろそういった対策を視聴者に講じてもらったほうが、より症状を緩和させ、薬の恩恵を感じてもらうことにもつながるのではなかろうか。
こうした抗アレルギー剤以外の花粉対策については、すでに多くのサイトや動画チャンネルから発信されているから、この場であらためて私が言うことでもない。しかし外来診療をやっているなかで「薬を飲んでもなかなか症状が改善しない」という人に、よくよく話をきいてみると、花粉を取り込まない対策を徹底していない人が少なくないことに気づくのだ。
たとえばマスク。着用してはいるものの、プリーツ型のマスクで顔に密着しておらず、隙間から花粉が侵入していることが明白に疑われる人。もちろん花粉の粒子は、インフルエンザや新型コロナウイルスとは比較にならないほど大きいから、まったく着けないよりも一定の効果は期待できようが、より顔面に密着するタイプのマスクのほうが、さらに取り込む量を半減させることが知られている。