子供が“教師の顔色”をうかがうようになる
【木村】探究型・双方向型授業の問題点と重なるのが、全人格的評価です。
【内田】かつてテストの点数だけで評価していたのをやめて、観点別評価に変えていきましょうという仕組みですね。子どもの力はテストだけで測定しちゃいけないだろうと。具体的には、関心、意欲、態度が重視されるようになりました。この子は授業中、こんなに元気よく発表しているじゃないか、それを評価に組み込んで評価の枠を広げましょうという趣旨です。
この仕組みはおっしゃる通り問題があって、要するに教師の権限が広がって、子どものあらゆる側面を評価できるようになってしまうんです。態度が悪い子どもを指導する、あるいは指導しなくとも、子どもは教師の顔色をうかがいながら学校生活を過ごすようになる。
【木村】じゃあ、どんな子どもが高いスコアを取れるかというと、実はテストが得意な子どもなんです。評価軸ごとにノウハウを磨いて、それを満たすように振る舞うには、テスト対策と同じ能力が必要ですから。もともと目指していたものとは、乖離していく。
【内田】例えば苦手な教科は終わった後に質問しに行くことで意欲をアピールして、みたいなテクニックが生まれます。それでスコアを上げて、推薦入試を狙うと。
“体育が得意”なだけでは「5」が取れない
【木村】私の子ども時代には、「体育」が「5」の子どもはクラスのスポーツのヒーローだったわけですが、今「体育」が「5」の子どもは違います。技能が出来るだけでは「4」までしか取れなくて、その後の振り返りで、「目標は◇◇だった」「○○の点ができなかった」「今後は、それを改善するために、△△に取り組みたい」みたいなことを表現できないといけない。これはやはりずれていると思うんです。人格の評価は、技能の評価とは別で考えないといけない。
【内田】テストの点数だけで評価すると言うと冷たく聞こえますが、裏返すと「それ以外は自由でいいよ」という話じゃないですか。最低限の知識はテストで評価させてもらうから、他は好きにしていいよ、と。この方が子どもにとっても良かったんじゃないかという感覚があります。
テストの点数は悪くても意欲がある子どもに対しては、例えば教師が休み時間に声をかければいいわけですよね。「この前の発表、良かったよ」とか。声をかけて褒めてあげれば、すごく自信が付くし、前向きに生きていけるはずなんです。「テストはダメだったけど、先生に褒められたもん」と思える。それを数字化しようとするからおかしなことになる。「全人格的にあなたは『1』です」とか……。
【木村】たまったものではないですよね。