約0.4秒で区別…魚が同種の他個体の顔を認知する

魚の「知能」については世界的にも注目される研究を次々に発表してきた大阪市立大学(現 大阪公立大学)の幸田正典氏たちの研究グループは、アフリカの湖に生息するプルチャーという魚が、同種の他個体の顔を認知することを明らかにしました。

プルチャーは湖の浅い場所で縄張りをつくって生活しており、観察していてもいつもの隣の縄張りの個体の場合には比較的寛容に接するのだが、そうではない侵入者のような個体に対しては攻撃を加えることがわかっていました。

研究チームは、「プルチャーの顔には、黄色、茶色、水色の3種の模様があり、それぞれの色の広さや形、配置などが微妙に異なっている」点に目をつけ、複数個体のプルチャーの全身像の写真を撮りコンピューターに取り込み、それぞれの個体の顔の部分だけを切り出して顔とそれ以外の全身とを、実際とは異なる組み合わせで、うまくくっつけてそれを水槽のガラス越しに、プルチャーに見せました。

その結果、縄張りが隣接していて顔を頻繁に見ているだろうと思われる顔の「合成写真プルチャー」に対しては、長く見つめることはなかったそうですが、初めて見ると思われる顔のプルチャーに対しては、「顔見知りプルチャー」の約3倍も長く警戒したときの姿勢や行動を伴いながら見つめ続けたといいます。

小林朋道『ウソみたいな動物の話を大学の先生に解説してもらいました。』(協力・ナゾロジー、秀和システム)
小林朋道『ウソみたいな動物の話を大学の先生に解説してもらいました。』(協力・ナゾロジー、秀和システム)

実験結果から推察して、プルチャーは相手の顔を約0.4秒で区別していると考えられ、これはホモサピエンスが相手を見分けるのに必要な時間と同じだといいます。

メダカが同種の仲間の顔を見分けることも東京大学の王牧芸氏と岡山大学の竹内秀明氏の共同研究で明らかになっています。さらに、このメダカの場合ではホモサピエンスが顔を上下逆さまにして見せると識別が顕著に難しくなるという「倒立顔効果」がメダカでも確認され、ホモサピエンスで推察されている顔認知専用に構築される脳内神経回路がメダカにも存在する可能性が高く、顔認知の進化的な側面の解明につながる期待がもたれています。

その他にも、魚に「曲芸」を教える際の魚の学習の優れた特性や、一度覚えたことを記憶している時間の記録等、魚の「思考能力」の高さを垣間見ることができます。