人間の知的能力はAIの大幅な劣化版になる
「現在の事業はだいたい3000人で運営している。非常にモデスト(謙虚)な目標だが、これを半分にする。半分で現業を成長させながら、残りのもう半分で新規事業をやっていく。DeNAはAIにオールインする」──DeNAの南場智子代表取締役会長は、同社が2月5日に開催したAIイベント「DeNA×AI Day」の基調講演で、今後の事業方針についてこう語った。
南場会長は生成AIによる効率化によって、現業の維持・成長に必要なホワイトカラー人員を削減。浮いた人的リソースで、アプリレイヤーの生成AIサービスを新たに手掛ける方針を示した。
ITmedia「DeNA南場会長『現在の事業、人員は半分に』 “AIにオールイン”の意思表明 もう半分を新規事業へ」(2025年2月5日)より引用
AIは人間の知性全体を陳腐化させる方向に進んでいる。人間の「頭の良さ(頭の回転)」を使った仕事はどんどん失われていくことになる。たいていの人間よりも知性がすぐれ、計算がはやく、そしてなにより眠らずに延々と仕事を続けることができるという点では、人間の知的能力(知的処理能力)は早晩AIの下位互換……どころか大幅な劣化版になる。OpenAIがリリースした最新のAIモデル「o1」は、今年行われた共通テストにおいて91%の得点を記録した。
AIには老化も過労もなければ寿命もない
人間の知的能力や知的探求の伸び代が頭打ちになってきているのは、純粋な脳の性能の問題というより、「時間(生物的寿命)」の側面も大きいことは付言しておきたい。たとえば数学をはじめとする自然科学の研究は、今日にいたるまでの膨大な先行知識をいち個人にインプットさせるだけでも途方もない時間的コストがかかる。それは言い換えれば、有限の時間を生きる人間がきちんと下準備を整えたうえで「その先」を想像(創造)するための猶予期間が相対的に短いこと意味する。
人間の寿命がもしエルフのように何百年もあるのなら、数学や物理学はもっと卓越するかもしれない。だが現実はそうではない。非凡なポテンシャルを持つ人がようやく斬新なことを考えられる程度の下地が固まったころになると、その人の人生はもう折り返し地点を迎えていて、心身ともに充実したコンディションを保った熟達した研究者として活躍できる期間は(睡眠時間とか食事の時間とかを抜きにして考えても)長くても20年くらいになる。ろくな教育を受けなかった基礎を知らない型破りの天才が世紀の大発見をする――という物語を好む人は多いが、現実世界ではそのような余地はほぼ残されていない。
それに比べてAIは老化も過労もない。風邪もひかないし眠くもならない。食事も風呂もいらない。ひげを剃ったり通勤したりもしない。やる気のある日とない日のムラもない。つねにエネルギッシュで充実したコンディションを24時間365日稼働することができる。基礎を学ぶための時間も人間とは比較にならないほど早い。数学でいえば、望月新一やラマヌジャンのような異次元の奇才はまだないかもしれないが、しかし彼らと違ってAIは不死でもある。