気づいたとしても、例えば不安定な非正規雇用の身から脱出して、キャリアアップを図っていくルートが見つけられるでしょうか。実際は、糸のように細い道しかありません。これまで何度か起業ブームもありました。ところが、実際の起業数は増えていません。それよりもすごい勢いで、自営業者の数が減っています。就業者総数に占める雇用者の割合は上がり続けていて、もはや約9割が雇われの身分です。そんな社会にあって、「若者が保守化した」「若者にハングリー精神がなくなった」と批判しても無意味です。日本社会全体が保守化しているのだから、若者の保守化も当然だと思います。

お金も人脈も決定権もある立場の大人が、「満足」と「不安」を同時に抱えている若者をどうにかしたいのならば、「もっと任せたらいい」と提案します。責任は自分が取るから君がやってみなさい、という形でしか人は成長させられません。ただ単に「がんばれ」と言っているだけでは無責任です。具体的にチャンスを与えることが肝心です。

経営が悪化したので若年層の採用を縮小する、というやり方はまったくナンセンスです。それは会社の持続可能性の放棄ではないでしょうか。意思決定できる立場の大人は、自分たちの老後や会社の将来を考える上で、若年層をエンパワーメントすることが合理的です。若者のためでなくても構いません。自分のために若者を育てていく必要があります。

また、長時間に及ぶ重要な国際会議では、相手国の渉外担当者よりも日本の担当者がずっと年長で、最終的には若いパワーに根負けしてしまうことが少なくないと聞きます。ならば、こちらも若いパワーで対抗したらどうでしょう。どんなに価値観が変わったとはいえ、日本の若者にも体力はあります。若者に重荷を背負わせたらいいのです。

チャンスも与えずに「がんばれ」と言う大人しかいないのなら、僕は若者の現状を肯定して「あきらめる」選択肢を提示します。

社会学者 古市憲寿
1985年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)がある。
(構成=オバタカズユキ 撮影=小原孝博)
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