「トヨタの人づくり」の本質が表れている
「僕らが小さかった頃は学校で『わかりません』と言ったら、なんで、お前はわからないんだと怒られましたけれど、学園ではそういったことは一切ありませんでした。そうやってやさしく教えてもらえたために今の自分があると思っています」
この話は重要だ。会社だけでなく、企業でも教育機関でも、人材教育会社でも先生や講師と呼ばれる人は「わからない」という反応に対しては一定の考え方しかしない。
「どうして、わからないんだ」からスタートして「わからないほうが悪い」といった考え方に帰結してしまう。それでは生徒は混乱するし、悲しくなる。
生徒が言う、わからないとは「その説明の仕方では今ひとつ理解できない」という意味だ。まるっきり理解できないわけではないのである。学園の指導員、全員ではないがトヨタの上司たちはわからないという反応に対してすぐに角度を変えて説明することができる。これがトヨタの人づくりを担う教える側の態度だ。この態度を定着させるには10年、20年の時間がかかるだろう。
燃料電池車の開発現場は今どうなっている?
では、現在、田中がやっている仕事について語ってもらう。水素製品開発部で彼がやっているのは燃料電池車(FCEV)に載せる水素ボンベを始めとする水素関係部品の開発と評価だ。田中は入社して7年間はパワートレインの騒音(ノイズ)と振動(バイブレーション)の評価部門にいた。
「あの頃はリーマンショックがあって残業がなくなり、毎日定時で帰ってました。午前8時に出勤して、16時50分に帰宅です。毎日、陸上の練習ができました。プライベートは充実していました。
仕事はNVの評価。NVとはノイズ・アンド・バイブレーション。雑音と振動です。エンジンではなく、トランスミッションなどの雑音と振動を評価して低減する。開発車両のマニュアルトランスミッションを試験していました。
現在はFCEV(燃料電池車)の水素スタックの評価をやっています。水素漏れがないように毎日、仕事をしています。燃料電池車はみなさん、まだまだあまり見たことがないかもしれません。水素製品がたくさん売れたり、水素ステーションが増えればもっと普及していくと思います。世の中は徐々に変わっていくものだから、その日のためにやるのが僕らの仕事です。開発車両のNV評価も同じことでした」
燃料電池車とその発電について説明しておく。燃料電池車はPEFC(固体高分子形燃料電池)で発電し、そのエネルギーを駆動部に伝える。その発電装置が燃料電池スタック。FCスタック(Fuel cell stack)と呼ばれるものだ。発電は水を電気分解するのと逆の原理とも言える。水素と酸素が水に変化する過程で発生した電気を利用する。