SNSへの投稿を理由に国会議員らに罷免された
裁判官としての私の30年のキャリアは、裁判官弾劾裁判所で罷免されるという形で2024年4月に幕を閉じました。私は、2017年12月に、ツイッター(現X)上で、性犯罪事件に関して「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」「そんな男に、無惨にも殺されてしまった17歳の女性」との文言とともに、この事件の判決を掲載した最高裁のウェブサイトのリンクを投稿しました。このことが、罷免の主たる理由とされたのです。以下、この投稿のことを「刑事事件投稿」と言います。
裁判官は、罷免されると裁判官の職を失うだけでなく、法曹資格も失います。また、退職金が支払われず、年金も減額されます。そのため、裁判官が罷免されるのはよほどの場合に限られるべきです。たとえば、盗撮をしたり、賄賂をもらったりといった、犯罪行為やそれに準ずる行為をしたケースです。
それなのに、国会議員らで構成する裁判官訴追委員会は、刑事事件投稿などのSNS投稿をしたということだけで、裁判官である私を弾劾裁判所に訴追しました。そして、同じく国会議員らで構成する弾劾裁判所は、刑事事件投稿をしたことを主たる理由として裁判官である私を罷免にしました。
国会議員らが、この程度のことで裁判官を訴追し、そして罷免してしまうのは、三権分立の観点から問題がないのでしょうか。
日本は、民主主義国家です。しかし、民主主義国家というだけでは不十分です。ロシアも民主主義国家ですが、野党指導者は獄死しました。ロシアでは、三権分立が機能していないからです。
日本も、司法が政治部門の言いなりになってしまうと、ロシアのような国になりかねません。
しかし、日本の司法は、伝統的に、政治部門に比べてとても弱い立場にあります。江戸時代は、そもそも裁判をしていたのは行政機関であり、司法というものがありませんでした。
明治時代になっても、裁判所は司法省の下部組織でしかなく、政治部門の支配下にありました。しかも司法省は、内務省や陸軍省などよりも格下でしたから、裁判官は行政官よりも低い立場で、給料も少なかったのです。戦後、アメリカが英語で作った日本国憲法によって、きちんとした三権分立という制度がようやく日本に誕生しました。しかし、日本人が自分たちで作ったわけでもない制度はそう簡単に根付きません。
また、司法は最高裁長官および最高裁判事の人事権を政治部門に握られ、予算権さえ与えられていません。100兆円を超える国家予算のうち、裁判所の予算はその約0.3%である3200億円程度です。
政治部門は、最高裁の判決に不満があったときに、自分たちの言うことを聞く人間を最高裁長官に任命して、その判例を変更させることまでしました。最高裁長官は、裁判官出身者である必要はなく、過去には政治家や学者が最高裁長官になっています。
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