認知症の行方不明者は年間1万8700人余り…行方不明の77%は当日発見
「ある日突然!」への備えが必要です
認知症の行方不明者が10年で2倍と急増しています。2022年の1年間で届け出があった認知症の行方不明者は1万8709人と過去最多でした。ただし、これはあくまで捜索願が出された人ののべ数で、そのうちの96.6%にあたる1万7923人は無事に見つかっており、8割近くが当日中に発見されています。残念ながら、亡くなった状態で発見された人も491人にのぼります。
行方不明の原因とされるのが「徘徊」です。徘徊とは本来、目的もなくふらふら歩くことをいいますが、認知症の人の多くは「買い物に行く」「家に帰る」などの目的をもって行動しています。しかし認知機能が低下しているため、道に迷ったり目的を見失ったりし、人に聞くこともできず、気づけば驚くような場所に移動しているのです。
「家族が監視すべき」は大まちがい
「徘徊」は認知症が進んだら起きると思われがちですが、行方不明者の中には認知症と診断されていない人やごく初期の人も多く、「本人も家族もびっくりした」という声はよく聞きます。ですから「ある日突然、行方不明になるかもしれない」という前提で準備しなくてはいけません。
それは「家から出さない」ということではなく、どこに行っても見つけられる準備をするということです。たとえば「徘徊」があってもなくても、いつも持ち歩くバッグや財布などに緊急連絡先の書いたカードなどを入れておきたいものです。自治体の窓口でヘルプマーク(赤字に白い十字とハート)をもらったり、ヘルプカードを活用したりすると、周囲のサポートも受けやすくなります。
外出時の全身写真を撮っておく
頻繁にひとり歩きをする、道に迷ったことがあるという場合には、各自治体の「SOSネットワーク」に登録しましょう。行方不明になったときに警察だけでなく、役所や介護職、地域の人などさまざまな人が協力して探してくれます。
バッグや杖などにネームタグをつけておけば、保護されたときの連絡がスムーズです。身元情報をQRコードにしたシールや迷子札を作ってくれる自治体もありますし、ネットなどで注文も可能です。手ぶらで出ていく人は靴や服に貼りつけましょう。居場所を確認するためのGPSもいざというとき役立ちます。自治体でレンタルできる場合もあります。
意外に盲点なのは、行方不明になったときに提出する写真の準備です。捜索に役立つのは、顔写真より普段歩いている姿がわかる全身の写真です。出かけるときの親の姿を、季節ごとに撮っておきたいものです。
杉山孝博
川崎幸クリニック院長
社会医療法人財団石心会理事長。1947年、愛知県生まれ。1973年東京大学医学部卒業。患者さんとその家族とともに50年近く地域医療にとり組む。1981年からは公益社団法人 認知症の人と家族の会の活動に参加。認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護の制度化や、グループホームなどの質を評価する委員会などの委員や委員長を歴任。『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、『認知症の人の心がわかる本 介護とケアに役立つ実例集』(主婦の友社)など著書、監修書多数。また監修・出演した映画『認知症と向き合う』(東映教育映像)も、わかりやすいと大好評。