組織の中で「やりたいこと」をやるために、こう立ち回る

――稲田さんはまさに料理という「好きなこと」を仕事にされた人だと思います。とはいえ仕事ですから、趣味と違ってマインドや取り組み方も変化を求められるのではないでしょうか?

稲田:「好きなことを仕事にすると、プライベートと仕事の境目が曖昧になって苦労する」という話はよく耳にしますよね。ただ、僕は好きなことを仕事にして苦労したことがないので、あまり共感できません。僕は昔から今に至るまで一貫して趣味も仕事も食で、プライベートと仕事の区別がほとんどないんです。外食も仕事に生かせますし、料理をしている時間そのものも楽しいですし、「好き」を仕事にするためマインドを切り替えたという意識はあまりないのが正直なところです。

――でも、先ほどお話に出た「名もなき雑用」のような作業が続くと、仕事が嫌になってくるときはありませんか?

稲田:たしかにありますね。僕は事務仕事が本当に苦手で、特に経費精算は腰が重くなってしまいがちなので、苦痛を感じながら作業することが多いです(笑)。料理という、自分が絶対に嫌いになりえないものとつながっていなかったら、たぶん耐えられなかったでしょうね……。経費精算は一見、料理からは距離があるように思える作業なので、取りかかるまでに大きなエネルギーが必要になってしまいます。

――稲田さんにとっての経費精算のように、たとえ好きな仕事に関われている人でも、その仕事が嫌になってしまうくらい苦痛な作業があるかもしれません。

稲田:そういう意味でいうと、僕は料理という作業は明確に好きで、料理であればどれだけしていても苦にならないので、料理の作業にできるだけ特化できるよう、周囲にアピールし続けた、という自覚はありますね。ときには狡猾に、自分がいかに料理が好きで得意かを伝え続け、「こいつは料理に特化させたほうがいい」と周りに思ってもらえるよう立ち回った節はあると思います(笑)。