よくて10年――。60歳で再発したが、65歳を迎えることができた。その年、こんどは肝臓と肺に腫瘍が見つかる。数は両手では足りないほど。いくつかの学校から、「現場に入って立て直してほしい。あなたしかいない」という誘いがあったが、冗談半分に「がんが消えたら、お受けします」と返事をした。

会津若松ザベリオ学園・学園長
守屋博子さん

68歳になって奇跡が起きる。がんが消えてしまったのだ。一番困っている学校に行く。そう決めて、会津若松ザベリオ学園(以下、ザベリオ)にやってきた。

ザベリオの入試実績を示す資料を開くと、その変化に驚かされる。守屋が学園長になる直前の年、高校の志願者は定員割れの110人。3年後の今春、1000人を超えた。

のっけから、幸運な出会いがあった。県下トップ校で校長まで務めた関博之が右腕になってくれた。守屋が言うには、関は飛び切り仕事ができる教育者。数字で会話ができるから、ストレスがない。行動も早い。守屋が大きな作戦を立て、校長の関が現場を指揮する。

これまでの経験から、やるべきことはわかっていた。いつも答えは単純だ。顧客に求められる学校になる、お得感のある学校になる、それだけだ。

関と手分けして、会津にあるすべての小学校、中学校を訪ねた。「どうすればうちの学校に来てくれるのか、うちの学校には何が足りないのか、教えてください」と頭を下げて回った。

要は、何も情報発信ができていなかったのだ。名前は知られていても、どんな学校なのか、卒業生の進路はどうなのか、どんな授業をしているのか、どんな先生がいるのか、中身が見えない。今では、生徒の学力まで公開している。