フィリピンへの投資から、50年以上にわたって経験を蓄積してきた丸紅の電力事業。かつては、EPC(設計から調達、建設まで)を得意とし、他社と比べて出遅れ感のあったIPPだが、今や他商社を圧倒し、確固たる地位を確立している。IPPが飛躍できた理由を山添が語る。

「97年、米サイスエナジーへの出資が、丸紅の電力事業を大きく変えました」

当時の同社への出資額は3億ドルで、300億円超の出資は、当時の丸紅にとっては、社の命運を左右する投資だった。当時、同社への出資にニューヨーク駐在課員として関わったのが舘上博(海外電力プロジェクト第3部部長代理)だ。

サイスエナジーへの出資を機に、丸紅の電力部門の部員たちが、同社のノウハウを吸収していった。IPPビジネスは、エンジニア、出資者、法律家といった、関係する異能な人材を1つに収斂させ、全体としてまとめあげる点が、重要である。丸紅の電力が、高い評価を得ている理由を、「一流であるからこそ、客に損をさせられないという意思が、部全体で共有されているから」と舘上は分析する。

このままだと会社を潰すよ。説明してよ

現在、海外電力プロジェクト第2部課長としてASEANをはじめとするアジア諸国を担当する小林亮太も、山添同様に、フィリピンで商社マンとしての姿勢を身につけた。小林が当時、担当したのは水力発電。小林は、マニラから車で5時間、そこから現地人スタッフと歩くこと2時間、やっとの思いで、現地に到着して説明会に臨んだ。そこで自作した“紙芝居”で、ダムの安全性を力説した。

昼食には、洗面器のような薄汚れた容器に山盛りのご飯が盛られた。住民の同意なしにダムはできない。自分が嫌な顔をすれば、会社に迷惑がかかる。小林は顔が引きつるのをこらえ、ニッコリ笑って洗面器のご飯をほおばった。こんな話を聞く度に、山添は嬉しそうな顔をする。

03年、丸紅は、先ほどのサイスエナジーの株式を、サイスエナジー傘下のサイスアジアに振り分け、結果的に同社を100%買収した。サイスアジアの下には、中国、韓国、オーストラリアの資産が連なる重要な案件だが、同買収を香港駐在員として担当したのも小林だ。