福田は、課員全員に対して1カ月に1回、その月に学んだこと、失敗したことなど、気づいた点を必ずノートに書かせている。課員同士がこの「虎の巻」を使うことで、過去の失敗から得られた数々の教訓を知ることができる。その結果、同じ失敗をする例は、皆無になった。

福田が飼料課(現穀物課)に配属されてから17年。歩んだ道は穀物メジャーにまで通じた。穀物メジャーを前にあらためてその意義を実感する福田だが、4年間、穀物メジャーの1つ、ADMで働いた経験がある。ADMは、世界75カ国に展開し、社員数は3万人以上いる。今後は、ADMのような穀物メジャーで一生涯、集荷、トレード、倉庫管理などの経験を積んだプロたちとの戦いになる。

福田の下で、世界を駆ける船舶管理を任されている05年入社の尾崎秀夫は、24時間、常に電話が通じるところにいる。尾崎が受け持つのは、6万トン級の船舶で、商品代金を含めると約15億円から25億円、それを東京で10隻管理している。年間5000億円のオペレーションのカギを握る尾崎は、こう言う。

「午前様の電話はトラブルばかりです」

忘れもしないのは08年の大晦日に、実家で紅白歌合戦を観ているときにかかってきた電話だ。当時、船の運賃は高騰し、1日あたり1000万円を超えていた。電話口で、米国西海岸の船主が言う。

「1カ月間停泊地で待ち、やっと港に向けて集荷をしようと思ったら、エンジンが壊れて行けない。どうすればいいか?」

顔面蒼白になった尾崎。頭の中で瞬時に1カ月間待たされた場合の用船料を計算したが、もう手立てはない。尾崎は、船主に「残念ですが(入港を待つ)列の一番後ろに戻るしかないですね」と、答えた。この失敗は「虎の巻」に書き込まれた。“長期停泊していた船は、動かす数日前からエンジンの調子を確認すること”。この1行が、今後、後輩のビジネスロスを救うことになるのだろう。