友達になるかどうかを決める「名刺」に
これがどれくらい流行っているかという例をご紹介しましょう。自己紹介をする時にまずは名前を名乗るのは普通ですが、最近の学生を観察していると、その次に何を言うかと思えば、自分がMBTI診断で何タイプだったかを述べるのです。このENFJ-Aなどの記号の部分です。まるで呪文のようです。
そうすると、相手も「ははん、なるほど、君はそういうタイプの人間なのね」と納得して、そこからコミュニケーションが始まります。あるいは、自分とは合わないとわかった時点でコミュニケーションを閉ざしてしまいます。これは決して誇張ではなく、実際私はその場面を目撃して、度肝を抜かれました。
私が子供の頃は、社会人になったら名刺を渡しながら「こういうものです」と言って自己紹介するらしいよと、小バカにしていたものです。社会人ごっこと称して「こういうものです」だけで自己紹介を済ませるコントなどをやっていました。
自分の名前も名乗らずに、どこどこの会社のどういう役職です、というのが自分そのものであるかのように語る。それをどうしてバカにしていたかというと、そんなものは、自分の属性でしかなく、「自分」ではないだろうと誰もが思っていたからです。そういうことがあったので、大人になってからも名刺を渡す時でさえ、所属や肩書きを言う前に、まず名前を名乗ると心に決めています。
16タイプの特性を暗記するすごい芸当
しかし、時代はさらにその先を行っていました。自分がどういうタイプの人か、ある特定の時期に、たった数問の設問に答えて割り出された(しかも信憑性の低い)性格診断の結果を交換し合う。
それを聞くと、暗に、相手はこういうタイプで、このタイプと相性が良く、このタイプとは相容れない、ということが頭に入っているので(すごい)、この人とはどういうコミュニケーションを取ればいいか、あるいは関わらない方がいいかということを瞬時に計算する。ものすごい芸当だと思いませんか。
生物学を学んでいるような学生でさえ、そのような診断結果を真に受けて、相手がどういう人かを判断してしまっているくらいですから、現代社会が「心」というものに対して、いかほど混乱して屈折してしまっているか。おわかりいただけるのではないでしょうか。