都合のいい情報だけ選ぶ「確証バイアス」
そもそも、なぜ私たちは占いや性格診断を信じてしまうのでしょうか。あるいは、多くの人が似たような傾向があり、「人間は何種類かに分類される」と思えるのでしょうか。
その謎を解く鍵も、脳の持つヘンテコな性質にあります。これは一般的に「確証バイアス」と呼ばれているもので、脳は、自分の仮説を支持する証拠だけに注目し、反証する情報を「わざと」見過ごす傾向にあります。このバイアスというのは、「思考のショートカット」とでもいうべき現象で、これは脳が省エネのために発明してきた便利な方法です。
たとえば、一卵性の双子というと、「似ている」というイメージが強いかと思います。もちろん原理的には、持っている遺伝子のセットは同じですので、ある意味でクローン人間と言うことができます。
しかし、私もこれまでの人生で一卵性の双子を何組か見てきた経験から感じるのですが、実際いうほど似ていないのではないでしょうか?
持っている遺伝子のセットこそ同じですが、生後の経験によって、どの遺伝子をオンにしてオフにするかというのが変化するエピジェネティックな調節も存在しますし、脳の回路は経験によって書き換わる柔軟性を持っているので、さらに違うものです。したがって、クローン人間だとしても、その性質はまったく違うものになって当然なはずです。
双子の似ていないところは見逃される
映画『エリザベス∞エクスペリメント』(2018年)や『月に囚われた男』(2009年)では、クローン技術が発展した近未来で、作製したクローン人間がそれぞれ異なる人格を持つことによって生まれる苦悩や葛藤を描いています。エヴァンゲリオンシリーズの有名なセリフのように、「たぶん、あなたは3人目だと思うから」と言われたらどうでしょうか。
そもそも、双子だから、クローンだから似ていると思い込んでしまっているのです。実は、その思い込みも確証バイアスなのです。つまり、無意識のうちに似ているところを探してしまって、似ていないところを見逃してしまっているのです。本気になって探してみたら、似ていないところの方が多いはずです。
初めて会う人なのに、この前に会ったあの人に似ているというあの感覚も、この「無意識に似ているところだけを探す」ということによって生じる錯覚です。かつては私も、この錯覚に基づいて、案外人間はいくつかに分類できるのかもしれないな、などと思っていましたが、これも「似ていないところもある」という当たり前の事実を完全に見逃し、「似ている部分」だけを探していたことから来る勘違いだったのです。