ビジネスは「暴力性」と「しらけ」を繰り返す
【澤円】最後に、時代の流れを大局的にどう捉えているのかについて質問します。経営者として、ビジネスのトレンドは今後どのように変化していくと見ていますか?
【片石貴展】およそ10年周期で、「暴力性」の時代と「しらけ」の時代を繰り返しているというイメージを持っています。例えば、1980年代はバブル経済によって、いわば暴力的に盛り上がった時代と捉えることができます。一方、バブルが崩壊し日本経済の長期停滞がはじまった1990年代は、反動で一気にしらけた時代と見ることができます。
2000年代に入ると、再びドットコムバブルをはじめITが隆盛しました。音楽やファッションにも1980年代に近いニュアンスがあります。それこそ、時代を代表する歌手であるモーニング娘。の歌詞やイメージは、それこそイケイケドンドンな感じでしたよね?
そして、そのカウンターが2010年代です。1990年代っぽい音楽やアーティストが登場し、ファッションも装飾的でインパクトがある「デコラティブ」なものよりは、日常的に着ることができファッション性も高い「リアルクローズ」が台頭しました。
【澤円】とても興味深い時代の捉え方ですね。その2010年代に、yutoriはまさに古着というリアルクローズの領域でビジネスをはじめたことになります。
「迷惑系」「BreakingDown」が流行ったワケ
【片石貴展】時代の流れや自分たちを客観的に把握することは意識していたのですが、結果的に、そうした流れにはまっていますよね。さらにいうと、現在はSNSなどの普及により変化のスピードが増し、およそ5年周期になっている感覚があります。
具体的には、2020年代に入るとシティ・ポップが流行するなど、また盛り上がりの方向へ進んでいくように見えました。しかし、コロナ禍の影響は大きく、盛り上がりつつあった「暴力性」が抑圧されたかのようです。そのため、怒りや落胆の感情をなにかにぶつけたい気持ちが高まり、ある種すさんだ「暴力性」が現れた印象があります。
エンタメひとつとっても、「BreakingDown」や「令和の虎」などのコンテンツが人気を博しました。街の喧嘩自慢が、格闘技のプロに勝てれば一気にスターダムにのし上がれる。ビジネスのアイデアひとつで億万長者を目指せる。あるいは、誰かのことを暴露したり、迷惑系の配信をしたりすれば突然、人気者になれてしまう……。
アウトプットの仕方は様々ですが、これまで正統ではないとされた方法で成功するという“神話”が、2020年代前半にありました。