※本稿は、山下悠毅『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
パートナーの悪しき習慣をやめさせるには?
患者さんと主治医が関係性を構築していく中で、サポートをする家族やパートナーといった周囲の協力は欠かせません。
「先生。私たちは今後、あの人とどう接していけばよいのでしょうか?」、必ずといっていいほど聞かれる質問です。
【医師】依存症を支える方は本当に大変でエネルギーがいります。その覚悟はありますか?
【家族】はい。あの人が変わるなら、私は何でもやります。教えてください。
【医師】でも、本当に本当につらいですよ。
【家族】大丈夫です。今までも本当に大変だったので、必ずやります。
【医師】わかりました。では、「どう接したらいいか」の答えを言います。これからは、「『これまでにやってきた効果のなかったこと』は二度としない」を守ってください。
【家族】どういうことですか?
「あの人とどう接したらいいかわかりません」。これもまた、患者さんと同伴した家族が必ず口にする言葉です。
ご家族は病院に来るまで、叱る、脅す、念書を書かせる、取り引き、泣き落とし、ありとあらゆる方法で、相手(当事者)を変えようと奮闘してきました。しかし、それらがうまくいかなかったのであれば、もう「それ」をしてはいけません。
なぜなら、これまでの方法では、相手と「仲が悪くなる」一方だからです。依存症に巻き込まれた家族は、「なんとかしてやめさせよう」とやっきになります。もちろんその気持ちはわかります。
しかし、人が行動を変えうるのは、「何を言われるか」ではなく「誰に言われるか」です。
そして、その「誰か」とは、「自分を裁かない」安心できる相手や、「今後もずっとつながっていきたい」相手なのです。
渇望が出たときに報告できる関係を目指す
そもそも、患者さんと向き合う上で、「ご家族のゴール」はどこにあるのでしょうか。
その答えは、「渇望が出た、スリップをした」ときに、すぐに報告ができる関係です。
性依存症の盗撮にせよ痴漢にせよ、加害者の人生が狭まってしまう理由は、「スリップしたから」ではなく「ばれること」にともなう社会的な刑罰や信用の喪失です。
行為自体は決して許されるものではありませんが、ばれなければ、当事者にとってその段階はギリギリセーフの線上にいます。
「してしまった」そのタイミングで、家族なり主治医なりに相談することができたなら、スリップはそこで止まります。必ず本人も後悔をしているからです。
しかし、そこで誰にも言えなければ、極めて高い確率でばれるまで行為は継続されてしまいます。ギャンブルも同様です。「競馬で3万円スリップしてしまった」こと自体は問題かもしれません。しかし、この時点で家族に告白できなければ、「だから取り返さなければいけない」と否認が生まれ、必ず深追いします。依存症とは、「そういう病気」なのです。