相手の行動を否定するのではなく受容する

【患者】先生、すいません……。先週、競馬でスリップしてしまいました。

【医師】そうだったんですね。ちなみに「いくら」使ってしまったのですか?

【患者】1万5千円です。

【医師】なるほど。それで、今はどんなお気持ちなのですか?

【患者】すごくつらいし後悔しています。診てくださっている先生にも申し訳ないです。

【医師】私は大丈夫ですが、なぜマイルールを敷いている中で競馬ができたのでしょう?

【患者】それが、先日、会社から出張の交通費が精算されて、現金で受け取りました。

【医師】では、今後も同じような場面があると思うのですが、どうしましょうか?

【患者】会社にお願いをして、精算は(妻が管理する)口座へ振り込んでもらいます。

このように、告白できたのであれば、スリップを通して治療は進んでいるのです。

依存症は、本人よりも家族が先に困ります。しかし、いつか必ず本人も困るのです。「いつか」がいつになるのかはわかりません。

しかし、ギャンブルにせよ痴漢にせよ盗撮にせよ、スリップを重ねて社会的な不利益や制裁を受ければ受けるほど、必ず誰かに相談をしたくなります。

その際、こちらが相手の行動を否定するのではなく受容し、相手を変えようとするのではなく、相手がどうなりたいかに注目しながら適切な対応を続けたなら、相手は必ず変わっていきます。

依存症患者の治療を妨げる三大禁則

そのためにも、家族やパートナーは次の3つをしないように心がけてください。

① 確認
「もう痴漢はしないよね?」「ちゃんと病院に通ってるよね?」など

② 念押し
「次にやったら、絶対離婚するからね」「次は実刑になることを忘れないでね」など

③ 蒸し返し
「あのとき、私がどれだけ大変だったか覚えてないの?」など

やりがちなことですが、これらは「やってはいけない」ことです。その理由を説明します。

理由その1:「確認、念押し、蒸し返し」、これらは当人の4つの感情を損なわせる
【図表】変化に必要なバランス
出典=『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)

物質依存症では、「安心」や「所属」の感情を得るため、行為依存症では、行動する理由は「特別」や「挑戦」の感情を得るためと『依存症の人が「変わる」接し方』の中で説明しました。

家族(=あなた、とします)が①と②をすればするほど、相手は損なった感情を、問題行動で満たしたくなります。

そして③の「蒸し返し」は、相手と喧嘩をしているときに、あなたが抜く「伝家の宝刀」です。

自分の形成が不利になった際に、「あのとき、私がどれだけ」と蒸し返す。これを抜かれたら、相手は黙るしかありません。

口論をするカップル
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです

あなたはいつでも勝てる常套句を手に入れたようなものですから、相手の中の「尊重・特別」「所属・つながり」「安心・安定」を奪ってしまうわけです。相手と衝突した際に、「いま、2人で論じているテーマ」と、過去に相手がしてしまった問題行動が無関係であったなら、過去を持ち出すのではなく、現在のテーマに集中して話し合ってください。