なぜお酒やタバコがやめられなくなるのか。依存症専門医の山下悠毅さんは「『お酒が飲みたい』『タバコが吸いたい』といった欲求や衝動は、そもそも自分の意志で選んではいない。何かをやめたければ、まずは脳の仕組みを理解するところから始めよう」という――。

※本稿は、山下悠毅『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。

喫煙中の人の手元
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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お酒やタバコが「おいしい」と感じるのは、脳内で快楽物質が出るから

最初はまずかったはずのお酒が、なぜおいしくなるのか? なぜやめられなくなり、依存していくのか?

その答えは、お酒を飲むと脳内で「ドーパミン」や「βエンドルフィン」などといった、快楽物質が出るからです。

快楽物質は、「好きなものを食べる」「性行為をする」「仕事を終える」「褒めてもらう」――こうしたタイミングで分泌され、「快」という感情をもたらします。

一方、お酒には吐き気や頭痛などの「不快」をもたらす副作用もあり、飲酒し始めたころは「快」より「不快」が強いため「まずい」と感じます。しかし、繰り返し飲むことで徐々に慣れてくると、「快」が副作用の「不快」を上回り、「おいしい」と感じ、ハマっていくのです。

この理屈は、コーヒーや煙草でも変わりません。摂取すると、快楽物質が分泌されて「快」を感じる。しかし、副作用の「不快」の方が強く感じる。そのため、コーヒーであればミルクや砂糖をたっぷり入れたり、煙草であればメンソールにしたり、タールの低いものを選んだりすることで、副作用の不快を減らすわけです。

ところが、やがて副作用に身体が慣れてくると、「通はブラックで」「メンソールなんてダサい」などと話すようになるから不思議です。脳は同じ刺激にさらされると、同じ刺激では快楽物質が出づらくなる特性があります。

どんなにおいしいお寿司や焼肉も、食べ続けると飽きてしまうし、苦痛にさえなる。しかし、アルコールやコーヒーは、毎日飲むことができる。その理由は「おいしい」でも「好き」でもなく、「依存」だからです。

酩酊によって生じる「不快の緩和」

お酒を飲むと、脳の「前頭前野」の血流が下がります。前頭前野とは、サルが人間へ進化する際に最も発達した箇所で、人間の理性を司っています。

理性とは、その人の人格のベースであり、食欲や性欲といった本能に対するブレーキです。人は理性が働くことで、「本能に上手にブレーキをかけながら」欲望や行動をコントロールしています。

お酒は、そうした人の理性を下げてしまう飲み物です。アルコールによって前頭前野の血流が下がり、機能が落ち、IQが下がります。そのため、人は酔っぱらうとバカ騒ぎをしたり、同じ話を何度も繰り返したり、言ってはいけないことを言ってしまったりします。

一方で、IQが下がることのメリットもあります。

私たちはいつだってさまざまなことに悩んでいます。「あの仕事はうまくやれるのか」「自分は頑張りが足りないのでは」「嫌われていたらどうしよう」――。こうした際、酔っぱらうことで、「ま、いっか」「なんとかなるだろう」と悩みが消えていく。これをアルコールによる「脱抑制」といいます。

「脱抑制による酩酊」――。これこそが、人がアルコールに依存するもう1つの理由です。快楽物質による「快の獲得」と、酩酊によって生じる「不快の緩和」、この2つが絡まり合うことで、人はお酒に惹かれていきます。