「不快の緩和」が依存を深めていく
ドーパミンやβエンドルフィンといった快楽物質による「快の獲得」と、酩酊によって生じる「不快の緩和」、この2つの因子により、人はお酒に依存します。
では、より依存を深めていくのはどちらでしょうか。
お酒に限らず、大麻でも覚せい剤でも、答えは後者の「不快の緩和」と言われています。
なぜなら人は、「飽きる」特性を持つからです。先述したように焼肉でもお寿司でもどんなにそれがおいしくても、食べ続けると飽きるし苦痛に変わります。これはドーパミンの「耐性」と呼ばれる特性で、同じ刺激にさらされると、ドーパミンが出づらくなったり、ドーパミンの受容体の数が減ったりしてしまうからです。
「不快の緩和」が依存を深めていくことを裏付ける調査や研究は、枚挙にいとまがありません。
「依存症の本質は快楽ではなく、苦痛にある」
これは米国のエドワード・J・カンツィアンという精神科医の言葉で、「自己治療仮説」と呼ばれているものです。依存症者は楽しみのために依存行動をとるのではなく、つらい感情や経験から逃れるためにアルコールや薬物に頼るという考え方です。
私も一理あると思っていますが、あくまで「一理」に過ぎません。依存や依存の進行については、自己治療仮説は正しいと思います。
しかし、アルコール依存症では、解雇や離婚、精神科への入院などを経て、本人も「アルコールや薬物が苦痛の緩和にはならない」ことを嫌というほど理解している方も多いのです。「苦痛の緩和」だけでは彼らが飲み続けてしまう理由には無理があるため、私は「一理」と考えています。
ドーパミンが出る脳の仕組み
ドーパミンについて、より掘り下げて説明しましょう。下の図表1を見てください。
この「ドーパミンが出るタイミング」はすべて、個体の生存に有利になる場面であり、ドーパミンが出ると人は幸せな気持ちに包まれ、思考が前向きになります。目は輝いて自然と笑顔もこぼれます。
「おいしいものを食べるとドーパミンが出る」と書いていますが、厳密には「食べたときに脳内でドーパミンが放出されると『おいしい』と感じてしまう」が正確な説明となります。
ではなく、本当は、
このようになるわけです。
そのため、本来は単なる小麦粉の塊であるスナック菓子やカップ麺なども、油で揚げたり、アミノ酸を添加する=「食べるとドーパミンが出る」ように設計すると、「おいしい」と感じてしまい、やめられなくなるのです。
昔、好きだった人や別れた恋人の写真を見返して、「この人のどこがよかったんだろう」と感じる方はたくさんいると思います。それは現在、その相手との関係において「ドーパミンが出ていない」ため、相手を「ありのままの見た目」で認知するようになったからです。これが、アルコールでドーパミンが出れば「おいしい」と感じてしまい、パチンコをしてドーパミンが出れば「楽しい」と感じてしまう“しくみ“です。