造り手の「遊び心」によるひと手間
なぜ現代でもアル添酒が存在しているのかというと、それだけの楽しみがあるからです。そこで、私の視点から本醸造の魅力を2つ紹介します。
①職人のひと手間
お米から日本酒を造れば、シンプルに純米酒になります。それだけで日本酒として成立します。しかし、造り手がここにアルコールを添加するということは、当然意味があるからです。
上限値までは添加が許されているため、ここが「遊び」になり、造り手の個性が出る部分でもあります。アルコールを添加する恩恵は、味の面で言えばキリっと引き締まり、香りの面では華やかさが引き立ちやすくなるところです。
例えるなら、江戸前寿司と近いかもしれません。淡白な白身魚は昆布で締める、脂の乗っている魚は炙るなど、素材の味を最大限に生かすために、ネタの1つひとつにひと手間かける。これが江戸前寿司の特徴です。これと同じでアルコール添加は、造り手のひと手間がかかっているのです。
酒造ごとの個性を知る楽しさ
②普段着の味わい
私が酒蔵に訪問をした際、積極的に飲むのは本醸造です。大吟醸などのランクの高いお酒は、どうしても「よそ行き」の味がするため、その蔵の味の本質を理解することは難しいです。しかし、定番酒である本醸造は「普段着」の味わいがあります。
本醸造は、その地域で長く飲み続けられている味わいであるので、その土地や酒蔵の個性を知るにはうってつけです。そして、本醸造が美味しい酒蔵は間違いなく、すべてのラインナップが味わい深いです。
このように本醸造は、職人の技と地域や蔵の個性を感じることができるお酒です。
大吟醸や純米酒だけにとらわれず、ぜひ積極的に本醸造を楽しんでみてください。その一杯から、日本酒の多様性を感じ取れるはずです。