2000年代に起きた「磨き競争」の結果

日本酒と言えば、大吟醸という言葉が真っ先に浮かぶ人も多いでしょう。たしかに、大吟醸は日本酒における高級酒の代名詞であり、その繊細な香りとフルーティな味わいは、ビギナーから玄人まで幅広い人気があります。

しかし、「大吟醸が一番美味しい」という固定観念は、今や過去のものとなりつつあると言えます。なぜなら、現代の市場では多様なスタイルと味わいが求められている中で、大吟醸はどうしても味が近しくなるため差別化が難しくなってきているからです。

味を均質的にする最大の要因は、精米歩合です。玄米から50%以上磨いた米で醸した酒を大吟醸と呼びますが、米は磨くほど雑味がなくなり、クリアできれいな味わいになります。

どれだけ磨いたのかが1つの価値になり、アピールポイントとなるので、2000年代は各社がしのぎを削り、20%を切るものも登場をしました。

なかでも業界に大きな衝撃を与えたのは、新澤醸造店(宮城県)がリリースした精米歩合が1桁台となる7%の「残響」です。

同社はその後さらに0.85%まで削った「零響-Absolute0-」もリリースしています。2024年現在、売値は40万円以上の超高級な1本です。

持続可能な酒造りに挑戦する蔵も

1990年代前半に特定名称が採用されて以降、「大吟醸=良いお酒」という価値観が根づいていきました。しかし、磨けば磨くほど味わいとしての差別化が難しくなりました。

近年では米の磨きに対する考え方が変わり、あえて磨かないお酒づくりをする酒蔵も増えています。あまり磨かない米を業界用語で低精白ていせいはくと言います。精米歩合80%や90%がそれにあたります。

米
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです

クラフトサケを醸造する稲とアガベ(秋田県)は、食用米とほぼ同じ精米歩合90%のみでお酒づくりを行っています。すべて農薬や肥料を使わない自然栽培米を使用しています。

過剰に米を削ることによる食品ロスが発生することを避けるためで、持続可能な社会を目指すという考え方からです。

幅広い世代に支持されている「新政」の新政酒造(秋田県)も「低精白純米酒 涅槃龜にるがめ」をリリースしています。寺田本家(千葉県)の「五人娘 発芽玄米酒 むすひ」のように全く米を磨かない玄米の日本酒もあります。