〈「インフレには不動産投資」は本当か?〉橘玲氏が臆病者のために考える「リスクなしで金融資産を保全する方法」(橘 玲/文藝春秋 2024年11月号)

物価が立て続けに上昇するインフレ時代に、どのように資産を守ることができるか。橘玲氏が解説する。

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インフレには不動産投資?

インフレ時代に資産を守るとは、100万円の札束を自宅の金庫に入れておくことではない。物価が10%上がれば、これまで100円で買えたものが110円になり、100万円の価値(使い勝手)は実質的には90万円程度に減ってしまうからだ。

物価が継続的に上昇するインフレでは、現金の価値はどんどん失われてしまう。アルゼンチンのような高インフレの国では、現地通貨で給料を受け取ったとたん、すぐに米ドルに両替しようとみんなが必死になっている。

年率3%でお金の価値が減価していくと、5年目には100円の実質価値は90円になり、10年で76円、20年で58円に減り、25年で半分以下になってしまう。

インフレ対策には不動産が有効だとされる。長期的には、不動産価格の上昇率はインフレ率を上回っているからだ。しかし歴史的には、株式市場の上昇率は不動産をさらに上回っている。この理屈では、不動産ではなく株式のインデックスファンドに投資すればいいことになる。

インフレ時代のマイホーム購入で考えるべきことは?(写真はイメージ) ©show999/イメージマート

ウォーレン・バフェットは1958年に、故郷のネブラスカ州オマハに3万1500ドルで自宅を購入した。その家の現在の評価額は140万ドルだが、そのお金を株式市場に投資していたら今日の価値は2300万ドルになっていたはずだ。「史上最高の投資家」はこれを、自虐的なユーモアを込めて「バフェットの過ち」と呼んでいるという。

マイホームの購入(という不動産投資)と株式投資とのいちばんのちがいは、住宅ローンによってレバレッジをかけていることだ。ほとんど理解されていないが、ファイナンス理論的には、マイホームの購入は株式の信用取引と同じだ。それも、複数の銘柄に分散投資するのではなく、借金してひとつの銘柄にすべての資産を注ぎ込むのだから、はるかに大きなリスクを負っている。都心のマンションが値上がりして、大きな(帳簿上の)利益をあげたひとがよく出てくるが、これは典型的なサバイバル(生存者)バイアスだ。多くの参加者がハイリスク・ハイリターンの投資をすれば、一定数の成功者が出てくるのは当たり前なのだ。

インフレ時代のマイホーム購入で問題になるのが、金利が上がれば毎月の住宅ローン返済の金額も増えることだ。住宅ローンの変動金利を年0.3%として、3000万円を30年で借りると、毎月の返済金額は約8万7000円だ。金利が1%に上がると約9万6000円、2%なら約11万円になり、5%で約16万円とほぼ倍になる。ちなみに、住宅ローン金利が5%というのは歴史的にはけっして珍しくない(バブル最盛期の1990年代の変動金利は8.5%だった)。