父の資産に手を出さず、立て替えた費用は数千万円

あとになって私は、父にかかる費用は父に払わせるべきだった、介護費用にしても、私が立て替えた経費についてはきちんと記録しておき、定期的に請求するべきだったと猛省した。

特に、父が介護施設に入所したあと、父の普段使いの銀行口座が底をついたため、施設に支払う費用も含めて、父にかかわる費用はすべて我が家が負担した。

ここまでのところを読んで「ケチなことを言うな」「親孝行の一環じゃないか」などと思う人がいるかもしれない。

しかし、最終的に我が家が負担した費用は、おそらく数千万円に達している。父にかかる費用を父の資産から支払わせていたら、父の資産は減り、おそらく相続税を払わずに済んだと思う。

ここに相続税の落とし穴があったのだと私が気づいたのは、父の死後、資産整理を始めてからのことだった。

介護生活6年目、突然の救急搬送

遺産整理に関わる大切なことを伝えるために、相続地獄に続く我が家の金銭事情についても詳細に記しておく必要があるだろう。

一緒に暮らし始めてからも、父はしょっちゅう高田馬場のマンションへ帰っていた。実家で酔いつぶれるまで飲んで、トカイナカの我が家へ戻ってこないこともあった。

一緒に食事をしていたという友人が、酔いつぶれた父を所沢まで車で送り届けてくれることも珍しくなかった。

だから暮らし始めて6年目のある日、警察から「お父さんが道端で倒れました」と連絡が入った時も、私は「どうせ酔いつぶれたのだろう」と最初は楽観視していたのだ。しかしそれは、とんだ見当違いだった。

父は高田馬場の実家から目白へ買い物に行き、バスで帰ろうと並んでいたバス停で突然クラッときて、その場に倒れ込んだのだという。

日本の救急車
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たまたま隣にいた人が救急車を呼んでくれて、病院へ搬送されていたのだ。あわてて妻と病院へ行った時には、意識はあったものの、脳出血を起こして、動けない状態だった。

医師からは「出血が脳の右半分で起きたため、思考能力や言語に支障はない。ただし左半身は麻痺します。リハビリをしてもこれまでの生活に戻るのは難しいでしょう」と通告された。