病気にならず、健康でいるためにはどうすればいいのか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授は「病院に行くほどではない心身の不調にきちんと対処することが大切だ。たとえば、疲労感がたまった時は帰宅してすぐに休憩するのではなく、ひとつアクションを挟むといい」という――。(第1回)

※本稿は、小林弘幸『病院に行くほどではない不調に医師がしたこと』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

帰宅したら、休む前に「靴磨き」

外での用事を終えて帰宅すると、ホッと一息つきたくなりますよね。疲れていたり、不調を感じていたりするならなおさら、すぐにでも横になりたいもの。でも、帰宅後すぐ、椅子に座るのはちょっと待って。

自律神経は急激な変化を嫌います。歩く→座る、よりも、歩く→片付ける→座る。後者のほうが変化が緩やかです。

帰宅したら買ってきたものを袋から出して片付ける、バッグの中身を整理する、財布の中のレシートを処分する、部屋着に着替える、部屋のどこか一箇所だけ整理整頓する、こんなふうに、一息つく前に何かアクションを一つ挟むことが大事。

何をしようか迷うときは、それをすることでスッキリとした気分を味わえるものを探してみましょう。私の場合は、帰宅したら毎日靴磨きをすることが習慣。靴磨きセットを玄関に置いておいて、帰ってきたらすぐに取り掛かれるように準備万端の状態にしてあります。

レザーの靴磨き
写真=iStock.com/Mikko Lemola
※写真はイメージです

とはいえ、仕事を終えて帰ってきたときには疲れているので、はっきり言って面倒な日も結構あります。

でも、毎日のルーティンを崩したくないですし、磨き終わった後の気分のよさも知っているので、その面倒な気持ちを封印するために、自分におまじないをかけます。帰宅して玄関を開けたら、「よし、靴磨きをするぞ」と大きな声で宣言。

たったこれだけのことですが、効果は絶大。掃除を始める前に「よし、やるぞ!」と気合いを入れるのと同じで、玄関の前で緩んだ気持ちを締め直すのです。

疲れたときほど、すぐに休まないほうがいい

「よし、やるぞ」と思っているだけではダメですよ。言葉にして声に出す(それもなるべく自分を鼓舞するように大きな声で張り切って宣言するのです)ことで気合いを注入できますし、自分と約束したような気持ちになり、疲れていてもスイッチが入ります。

それに、宣言したのにやらないでいると妙な罪悪感に襲われるので、嫌々でも靴磨きをすることになります。

取っ掛かりこそ面倒ですが、やってしまえば5分程度で終わること。磨き終わった後のピカピカの靴を見れば、満足感が得られて気持ちが晴れ晴れとしてきます。

靴磨き後もよい気分は続き、帰宅から就寝までの時間も充実します。反対に、帰宅後にどっかり座ると、体を休められたような気がしますが、外出(交感神経優位)からの休息(副交感神経優位)の振り幅が大きく、かえって疲労感を増幅させてしまうことにつながります。

ちょっと休憩のつもりが座ったまま動けなくなり、何もできないまま日は暮れていき、夕食作りも入浴も億劫に……なんていうことが起こるのは、自律神経の働きからすると不思議でもなんでもないのです。

今日は疲れたなと感じたときほど、自分の心を自分の体に取り戻す習慣を取り入れてみましょう。終わりよければすべてよしじゃないですが、一日の終盤の自分をご機嫌でいさせるために、玄関を開ける前に「私は、今から○○をする!」と宣誓してみるのもいいものですよ。