夫は「ダメな総理大臣」
最近は、母親の役割を「マネージャー」として捉えるのと同じように、夫婦の関係を「内閣」になぞらえて想像することもあるという。
夫はダメな総理大臣で、自分はそれを支える官房長官みたいなものかもしれないとも思うことがあります。夫に対して、自分がそういう気持ちで臨んでいることを言いました。そうしたら夫婦の会話にも出てくるようになりました。
夫からは頼みごとがあると「すみません官房長官、ちょっと折り入ってご相談が」って言われて、「どうしたんですか、総理」なんて返します。あんまり大変な相談だと、官房長官の仕事を放棄しています。そうすると、総理がそのぶんやることになります。苦労しながら家事や育児をしている様子をたびたび見るようになりました。
夫とのやりとりをいきいきと話す石川さんからは、ユーモアを楽しむ心が感じられた。今も夫婦の関係は修復の途上にある。夫との離婚を想像する日もあれば、ふたりの関係を肯定的に捉えられる日もあるという。
「愛情を持てない」気持ちは変わらない
今は、子どものそばにいることがずいぶん楽になったという。一方で、カウンセラーから「いっときだけ」と言われた、子どもに愛情を持てないという気持ちは変わっていない。
義務だと思うとつらくて子どもから離れたかったのですが、一緒にいることが苦しくなくなりました。子どもも私の変化に気づいて、「ママ、いまトゲトゲしてない」って言います。
でも、子どもに愛情を感じるかというと、今もそうではないです。親権を放棄したいなんて考える母親は魔女みたいに言われますけれど、母親は神様にはなれません。
1年前、私が石川さんの心の状態に気づかなかったように、今も取材で石川さんのすべてがわかったとはいえない。まだ誰にも話せていないことがあるかもしれない。夫や子どもに対する思いが揺れ動く瞬間もあるだろう。ただ、先の見えなかった苦しい状況が何かのきっかけで変化することもあると、石川さんは自分の経験として伝えてくれた。
この先、状況が改善することもあれば、悩みを深める出来事が起きることもあるかもしれない。その度に、過去にあった出来事を語る言葉は、肯定的にも否定的にも変わるだろう。今後の変化が、石川さんにとって少しでも良いものであってほしい。