離婚を切り出したことで夫にも変化が
番組で見た美保さんの言葉をきっかけに気の持ちようが大きく変わったという石川さんの話は、取材者にとっては嬉しいものだった。ただ、あれほどの苦悩を抱え、カウンセラーに相談しても状況の変わらなかった状態が、たったひとつの言葉で劇的に変化するものなのだろうかという気持ちにもなった。
自分自身の心の持ちようが変わっただけではなく、同じ時期、夫の行動が変化したことも事態が良い方向に進む大きな要因になったようだった。
取材のあと、石川さんは夫に離婚を切り出していた。離婚の話でようやく、夫は妻が極限まで追い詰められていることに気がついたという。夫の同世代の友人には離婚した人がいた。友人から働き詰めで出世はしたのに家庭がめちゃくちゃになったという話を聞き、自分も他人ごとではないと危機感を持ったようだった。職場でも、子育て中の同僚から「子どもの運動会はいつ?」と聞かれたとき、答えられなかったことを周囲から責められ、自分がどれほど子育てを妻に任せきりにしていたかを知った。
「してもらって当然」から感謝を示すように
この頃から夫は、多忙を極めた業務に余裕がでてきたという外的な要因も手伝い、学校行事に出席し、子どもを連れて遊びに出かけようとするようにもなったという。
ただ、これまで一緒に過ごしてこなかった父親が子どもたちとの信頼関係をすぐに築くのは難しかった。子どもたちに「パパでは嫌」と拒否されることもあり、夫もショックを受けている様子だった。石川さんは変わろうとする夫をアシストして、お菓子を買ったときには子どもに「パパにあげたら?」と声をかけ、何かときっかけをつくるようにした。子どもは父親が自分のことを知ろうとしてくれていると感じたのか、少しずつ距離は縮まっているという。
家庭内では何をしても感謝も評価もされないと思っていた石川さんだったが、今は夫から感謝や気遣いの気持ちを感じるようにもなった。「してもらって当然」という態度だった夫が、食事を出すときにも感謝を示すようになったことで、これまでと同じように家庭内の仕事をしていても受け止め方がまったく違うようになり、苦痛が減ったという。