売れているのにお金がない!
宮本のFBのおかげで売り上げは順調に伸びていったが、やがて2人は奇妙な現象に突き当たることになった。売れているのに、会社にお金がないのだ。売り上げが大きくなるに連れて在庫も膨れ上がっていき、気がつけば2カ月先に取引先に支払う現金が足りない。雇っていた数名の社員に支払う給与も足りなかった。またしても倒産の危機が迫ってきた。
この時期、2人は猛烈な喧嘩をしたという。
宮本が言う。
「仕入れも新商品の開拓も私がやっていたのですが、展示会を回って帰ってきたら、今度は100ブランドぐらいある商品の発注作業をしなくてはならないわけです。カタログや商品画面と、前年の販売実績のデータを見比べながら発注数を決めるわけですが、中にはFAXで注文書を送らなくてはならないメーカーさんもあったりして、ものすごく手間がかかる。ほとんど、眠る時間がありませんでした。眠いと頭が回らなくて、本当に追い詰められた気分になってしまうんです」
弱音を吐いた夫に、肝が据わった妻の言葉
瀬川が言う。
「倒産の危機が迫っていたんで、恐怖といら立ちで気持ちがささくれていて、宮本にすれば業務改善のためのアドバイスのつもりだったのでしょうが、何を言われても腹が立つんです。お互いにトゲが立ちまくっている状態でした」
しかし、不思議なことに2人の間から「会社をやめよう」という言葉は出てこなかったという。瀬川の初期衝動も揺らがなかったし、宮本には、ある意味で欲が出てきてもいた。
「展示会や仕入れの仕事を通して、取引先といい関係ができていたんです。だんだん認められていっている実感もあったし、当時の社員との関係もよかったので、私はべびちゅをやめたくないと思っていました」
言い争いがひどくなると、2人はクールダウンのために深夜の公園に出かけていった。コンビニで買ったアイスクリームを食べながら、さまざまなことを語り合った。
「起業なんか、せんかったらよかったな」
ある晩、瀬川が弱音を吐いた。
宮本は、瀬川からそういう言葉を聞きたくなかった。
「あのまま会社員やってたら、3年先、5年先の想像がつくやんか。でも、今は1週間先の想像もつかへん。そっちのほうが、人生面白いやんか。きっといつか、あん時の苦労のおかげでいまがあるんやって思える日がくるで」