「目玉が出てくる自販機」は大人気に
この自販機は、いつなにが何個売れて、在庫が何個あるのかをクラウドで管理できる優れもので、その価格、なんと約350万円。トヨタのプリウスと同じぐらいの価格だ。補助金を使ったそうだが、大きな投資である。
「これぐらい売れたら、この期間で回収できるとか、計算したんですか?」と尋ねると、ナカニシさんは苦笑した。
「そういうの、ほんまにできなくて。目玉が出てくる自販機なんかないし、絶対面白いから、やってみよう!って」
自販機には目玉チョコレート、指クッキー、耳クッキー、もぎ取る君クッキー、オリジナルのコーヒー、紅茶、目玉マスキングテープなどを並べた。その反響は、「どえらいことになりました」。
設置の当日から行列ができて、商品が飛ぶように売り切れていく。自販機の棚をフルに埋めるだけの商品を作るのに2日間かかるのに、どんどん売れるから仕方なく1日分を補充に行くと、それもすぐになくなる。
「あの時は、この生活を続けたら死ぬなっていうぐらい働いてました。とりあえずできたやつから入れていくみたいな感じで補充してたんですけど、売れすぎてすぐ空っぽになっちゃう。お客さんから『今日はもう補充されないんですか?』と聞かれて、『今日、また夜から作ります』と答えてましたね」
2台目の自販機を買う
自販機フィーバーは、1年続いた。その後もコンスタントに売れ続けていたが、当初の契約で設置期限は2024年3月31日まで。自販機を別のところに移さなければならず、ツテをたどって場所を探していた時に、大阪にある心斎橋ビッグステップの支配人から「面白い自販機を集めたコーナーを作りたい」と声がかかった。
話を聞いてみると、場所代は受け入れられる金額のうえ、商品の補充や金銭管理も代行してくれるということで、目玉自販機の移設を決めた……はずだった。
ところが、大阪モノレールに連絡すると、「ナカニシさんのところは契約が延びました」と予想外の展開に。大阪空港駅の売り上げはコロナ禍で半減した売り上げをカバーしてくれた。
手放さずに済むなら、そうしたい。ナカニシさんは、自動販売機ドットコムというサイトで、ひと回り小さな自販機の購入を決めた。こちらは約160万円で、2台合わせるとベンツのコンパクトカー「Aクラス」の新車が買える金額だ。
売り上げがコロナ前の“絶頂期”を超える
2024年4月、心斎橋ビッグステップに自販機を設置。この投資が、当たった。心斎橋周辺は面白がって買ってくれる若者やお土産に買う外国人旅行者が多く、今や大阪空港駅を上回る売り上げを記録している。
コロナ禍が落ち着き、企業や映画とのコラボも復活したことで、全体の売り上げは絶好調だったコロナ前の1.4倍になった。お菓子の生産体制を拡充し、自販機を増やせば怪奇菓子のニーズはまだまだ伸びるだろう。しかし、ナカニシさんは望んでいない。
「一回、ふたりの人にお菓子作りを教えたことがあるんですよ。できることなら、任せたいと思っていました。でも、なんか違うんです。例えば、指クッキーが焼きあがると、私の指クッキーと違う見た目になっちゃう。それでもいいやと思えればいいんだけど、私はそれが耐えられなくて」