ヤマザキマリの目を輝かせることに成功

そして対談もいよいよ終盤というところで、それを取り出して問うてみたのだ。

「何人いるんですか、『ヤマザキマリ』さんは。ひどい素養かもしれないけど、オレの中でまとまらないんですよ、あなたは」

するとヤマザキさんが「古舘さん、これなんですよ!」と、いっそうキラリと目を輝かせておっしゃったのだ。「これなんですよ。私は画家じゃないですから。単なる絵描きですから、作風に一貫性も何もなくて、バラバラなのが私なんです。いや、こんなバラバラをまとめてもらえたのは初めて!」と。

もしかしたら、せっせと切り貼りをした僕に合わせてくれたのかもしれないが、ともかく対談は大盛り上がりのうちに終了した。デザインセンスの欠片もない素人のパッチワークは、他では読めない対談にするための準備としては十分に機能したわけだ。

さて、ここで話は冒頭の問いに戻る。

自分独自の切り口を探すこと

「出会いの第1打席」である初対面、どう準備するか。

古舘伊知郎『伝えるための準備学』(ひろのぶと)
古舘伊知郎『伝えるための準備学』(ひろのぶと)

あなたは、ただ空白を埋めるために「好きな音楽は?」「日曜日は何をされるんですか?」なんて質問をしてしまっていないだろうか? そんなとりあえず聞きました、という質問は「うるさい」。しょせん質問のための質問だ。

もしそれが本当に聞きたいことだったなら、かまわない。でも、間を埋めているだけならば、それはやめよう。第1打席、しっかり準備をしたほうがいい。

誰もが思いつくような話題を避け、自分独自の切り口を探すこと。

そのためには、まず相手について、できるだけ調べ尽くす。そして「これ」という一点突破のポイントを見つけて、さらに深掘りする。出番がなかった『プリニウス』のセリフのメモも、ヤマザキさんの仕事のパッチワークも、僕がやったのは、そういうことだ。

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