自己決定が神経症を克服した

『それから』で、漱石は次のように綴っています。

最初から客観的にある目的をこしらえて、それを人間に附着するのは、その人間の自由な活動を、既に生れる時に奪ったと同じ事になる。だから人間の目的は、生れた本人が、本人自身に作ったものでなければならない。

「本人自身に作ったものでなければならない」というのは、いわゆる自己決定です。

物事を自分で決められる人は幸福度が高いというデータも示されています。

漱石は帝国大学に入るくらい優秀だった人ですから、人一倍がんばり屋で、真面目で、努力家だったことでしょう。

また、世間からの大きなプレッシャーにも強く、周囲の期待に応えることで、自分の存在意義を実感できたのかもしれません。

しかし、周りの期待に合わせてばかりでは自分を見失ってしまいます。責任感が強いと逃げることもできません。

でも、他人が求めることと、自分が本当に求めていることは異なりました。漱石は、小説の中で、人間の目的は、生まれた本人が、本人自身に作ったものでなければならないと主張したのです。

逃げるには、「相手がどう思うか」「相手は自分に何を期待しているか」を考えすぎないことです。

「他人軸」で物事をとらえて行動していると、心底疲れ果ててしまいます。

上手に逃げるための武器は「自分軸」

逃げるのが上手な人は、「自分軸」で生きています。

さまざまな判断を「私はどう思うか」「私は何をしたいか」を軸に行動します。

これをワガママという人もいますが、そんなことを気にする必要はありません。無視してください。

自分軸を取り戻すコツは、「私は」という主語を明確にすることです。

ベンチに座って瞑想するビジネスウーマン
写真=iStock.com/Liubomyr Vorona
※写真はイメージです

「私は、会社に行く」
「私は、今日この業務を終わらせる」
「私は、今日は早めに仕事を切り上げてゆっくり食事をする」

自分軸を明確にすると、だれかの期待に応え続けて生きてきた人は、自分の気持ちが明確になります。

いままでだれかの期待に「イエス」と応えてきたけれど、本当は「ノー」だったことに気づきます。

意外にも周りはあなたの「ノー」を尊重してくれることに気づきます。

もしも、自分軸がわからなくなったら、「私はどうしたいの?」と声に出して自分自身に質問してみるのが効果的です。

意地もプライドも捨てるのです。

「私はすごい」「私はできる」と、自分の力を証明しようとする背景には、自信のなさや競争心、虚栄心、承認欲求があります。

自立心は強いのですが、自分の感情よりも、思考が優位になりがちです。

これは感情を無視していることに他なりません。