試しに作ったYouTubeはまさかの10回再生

かたやYouTubeを覗くと、番組コンテンツ作りをしたことがないほとんどシロートの人たちが粗削りながらも想像力を駆使して作品を作っている。しかも、人気のものは再生数が驚くほどあり、コメント覧には称賛の声がずらりと並ぶ。「テレビよりずっと自由度は高くて、楽しい世界なんだ」と愕然とした。

「ならば自分も、と試しに文字アニメのソフトを使って動画に投稿してみたんです。『いきなり100万回再生とか、バズったらどうしよう』なんてこっそり期待していましたが、たった10回再生(苦笑)。まぐれでバズることなんてない厳しい世界だとわかりました。でも、縮小再生産のテレビ番組づくりにはもう嫌気がさしていて」

そんな中で、ディレクターとしてのモチベーションを保ちながら、かかわれる番組があった。

お笑い芸人の東野幸治さんがMCの『その他の人に会ってみた』(TBS系)で、街中で一般人にインタビューをするコーナーを担当。深夜番組で報酬も良くなかったが、変わった人、面白い人、ヤバい人などとの交流や取材は本当に楽しかった。そう、これこそ、街録の原型だが、この番組は早々に打ち切られた。

「もう、自分には金を稼ぐためだけの番組しか残っていませんでした。自分が本当にやりたい番組はカメラ一つと、面白い人さえいれば作れると思ったのです」

三谷さんは取材者の講演会をサポートする仕事も
撮影=東野りか
三谷さんは取材者の講演会をサポートする仕事も

収益は月7000円からスタートし、半年後には60万円にハネた

すでに妻と結婚していたし、もともとリスクヘッジをする慎重な性格。10年以上自分を食べさせてくれたテレビ業界にすぐ見切りをつけず、2020年3月ごろからディレクターとYoutuberの二足の草鞋を履いた。

折しもコロナ禍でテレビの仕事が減った時期だが、月30万〜50万円ほどコンスタントに稼ぎ、余った時間で街録をYouTubeに投稿した。

「最初は月7000円しか収益がなかったのですが、それが次第に1万円、3万円、10万円、30万円と伸びていったんです。半年後には60万円までいったので、これでYouTubeに専念できると決断しました」

なぜ、そこまで順調に伸びたのか?

「当時は毎日投稿していたので、たくさん数を打っていると、何がOKで何がNGなのか傾向が分析できました。当初、バラエティ番組風に出演者をイジっていたのですが、真面目に相手の人生を追求していくほうが、再生回数が回るのだと分かったのです。それにYouTubeはいくら長尺でもいい。街録は、言ってみれば、シンプルなインタビュー形式対談スタイルなので、“ながら聴き”できるのも良かったようです」

街録では、台本も事前打ち合わせもなし。取材対象者の生い立ちから聞き始めて、真摯に耳を傾けるというスタイルが好評を博した。収益60万円超えは、前述の東野さんが自分の番組に特別出演してくれたことも後押しになった。

「インスタグラムのダイレクトメッセージで、東野さんにダメもとでご連絡したところ、私のことを覚えてくださったようで。やりとりをさせていただいているうちに、ノーギャラで出演してくださることになりました。それ以降、東野さんが出ているのだからと信用がついたのでしょう。街録に出たいという要望がぐんと増えたんです」