※本稿は、満尾正『名医の食卓』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
たんぱく質のとりすぎには要注意
わたしのクリニックでは毛髪分析により必須ミネラルの充足率を調べていますが、高齢の方ではほとんどのミネラルが不足している例も珍しくありません。食事で摂取するミネラルそのものが不足していたり、胃酸を抑える薬の服用によって消化が妨げられていることもありますが、きちんと食べていても消化・吸収がうまくいっていないことがかなりの要因を占めているのではないかと思います。
健康維持のためには、食べたものをきちんと消化してエネルギーとして利用することが重要です。「何を食べるか」が関心を集めますが、「消化しやすいか」は意外と食材選びの基準になりにくいのです。
年齢とともに、どうしても消化力は衰えるので消化できないほど食べすぎれば、使われなかった余分な栄養素は老廃物となって体に負担をかけてしまいます。とくに、たんぱく質を増やそうとして、肉ばかり食べたり、サプリメントのプロテインに頼るような食生活には注意が必要です。
なぜ年をとると揚げ物がキツくなるのか
私たちが食べた食べものは、口の中で小さく噛み砕かれ、まず唾液と混ざります。唾液にはアミラーゼという分解酵素が含まれ、でんぷんをより吸収しやすいマルトースなどの糖質へ変化させます。
飲み込んだものは喉から食道を通って胃へ進みます。胃では酸性度の高い胃液が分泌され、これにはペプシンというたんぱく分解酵素も含まれています。胃はぜん動運動と呼ばれる動きを繰り返し、2~3時間かけて食べものをさらに細かく分解しながら腸へと移動させていきます。
腸の入り口にある十二指腸で消化酵素を含む膵液や胆汁を吹きかけられた食べものは小腸へ運ばれ、3~15時間かけて吸収されます。小腸の壁には無数のひだがあり、その表面にはさらに1mmの小さな突起(絨毛)が約300万本敷き詰められています。
これは養分を吸収する植物の根の構造とよく似ています。絨毛から吸収された栄養分は血管に入り、血液として全身に運ばれ、エネルギーや体の材料として利用されます。残ったカスに含まれるさまざまな成分は大腸の腸内細菌が分解し、カスが大腸を通過するうちに水分が吸収され、固められて最終的に便が形づくられていきます。
これが消化・吸収の仕組みです。消化の際には酵素が重要な働きを担っていますが、酵素の分泌は年齢とともに減少します。高齢になると揚げ物を食べられなくなったり、量を多く食べられなくなると感じるのは、そうした理由からなのです。