内容すら固まってないのに、「ウケたい」「採用されたい」の我執にまみれては、プレゼンが成功するはずがなかった。小さく頷くTに対して、小籔から「最後、ドヤ顔してませんでした?」の追及が飛ぶ。そう、Tはプレゼンの後、「どうでした、僕の案?」と得意気な表情を隠せないと評判なのだ。

「プレゼンは、力を出し合ってプロジェクトを成功させるのが目的でしょう。そこでドヤ顔になるのは、プロジェクトを踏み台にして自分ができるやつと思われたい感情が先立っているから。まずその心根を直さないといけない。でもドヤ顔するから採用せえへんという上司は上司でクソやなと。それがめっちゃええ案なら、『ありがとうな、それナイス案やな、いただくわ。でもその後のドヤ顔はカスやで』と叱るのが一番やと思いますね」

Tのおこした火の粉が不在の上司にまで及ぶ事態に……。ちなみにカスつながりでは、プレゼン中、話の邪魔をするカスには、「そういうタイプは横についてくる。僕が『稼ぐ人の勉強法の肝は時間と集中やと思うんですよ』と言ったら『そうやねん、稼ぐ人の勉強法は時間と集中やねん』と内容ゼロの復唱してることが多い。だから隣で同調しだしたら『あっ、そうなんですか。ほんでどういうことですか』と自分も聞き手側にまわって先に全部言わせる。そうするともうそれ以上喋りません」という実践的な指導も。

さらにTは、「プレゼン中、みんなが関心薄そうで自分の話を聞いてくれないんです」という一番の悩みを切り出した。そんな状況でどうしてドヤ顔ができたのか? ますます深まる謎はさておき、相談を受けた小籔はTを凝視し腕を組む。

「品行方正で話も普通の男って引きがない。芸人もそうですけど、やっぱりこいつヘンやな、いびつやなと思う部分がみんなの心に傷跡を残すんですよ。だから自分のちょっと変わった人間性を強調する。日本史好きなら『今日は関ヶ原の戦いが始まった日。僕も石田三成のように負けないよう頑張りたいと思います。それでは』と始めたら、『なんやねん、おまえ』みたいに意識がいくじゃないですか。Tさんも人と違う特徴あるでしょ?」

「僕はその、何でしょう……これといったものはないですかね……」

「何もない? 何もないんですか、あなたは。じゃあ僕が決めます。明日からホットヨガキャラとして頑張ってください。それがダメなら普段からおっちょこちょいを演じましょう。会議始まる前、『今日めっちゃ緊張しますわー。あっ、なんでこんなん入ってんや!』言うて、ファイルの中に入ったエロビデオのチラシ1枚を見せる。そしたら『こいつミスるんちゃうか』とみんな注目しますから」