人びとはどのサービスをどの程度利用し、その傾向は年々どのように推移しているのか――。プレジデントオンライン編集部がビデオリサーチ社と共同で お届け する本連載。首都圏の消費者を「お金持ち」層(マル金、年収1000万円以上)、「中流」層(マル中、年収500万円以上から1000万円未満)、「庶民」層(マル庶、年収500万円未満)という3ゾーンに区切り、生活動態の分析を試みている。
アルコール飲料全体の中で、なんと言っても全年収層に最も飲まれているのがビールである。年によって多少の増減はあるものの、約半数の20歳以上の男女がここ3カ月にビールを飲んだと答えている。
興味深いのは2010年から2012年にかけて、つまり震災前後の動きだ。年収1000万円以上のマル金層は2010年から2011年にかけて約5%ダウンしているが、翌2012年にはそれを凌ぐ7%の伸びとなった。年収500~1000万円のマル中層と、500万以下のマル庶層は緩やかにビール離れしそうになったものの、震災を機にむしろビールに戻ってきてそのまま横ばいになっている。
いやいやビールよりも安い発泡酒や新ジャンル飲料に流れているのではないの? と推測しつつ、発泡酒のグラフも見てみよう。
ちなみに、発泡酒とは麦芽比率が3分の2未満のものを指す。銘柄で言うと「淡麗」「生搾り」などである。新ジャンル飲料は発泡酒とはまた種類を異にし、麦芽・麦以外を主原料とする「その他の醸造酒」と、従来の発泡酒に麦由来のスピリッツや蒸溜酒を加えた「リキュール」の2つに分類される。ここでは、それら発泡酒および新ジャンルの飲用経験を聞いている。
ご覧のように、やはり全層ともにまだまだビールに分があるのは明らかだ。なんだかんだ言っても「とりあえずビール!」という形は崩しづらいのかもしれない。
ここで特に面白いのは、震災後のマル金層の発泡酒離れだろう。
前回の日本酒・焼酎・ワインと同様、マル金層ではビールも同じような割合で落としているが、特に発泡酒・新ジャンル飲料における落差は極端に大きい。全体に「飲む総量」は控えめにする、その代わりに、多少価格帯が上がっても「本来飲みたかったもの」を選んだ可能性はないだろうか。
たとえばプレミアムビールである。銘柄別の調査で最も顕著に“ささやかな贅沢”傾向が見えたのはサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」をはじめとするプレミアムビールだ。グラフは一例だが、他社のプレミアム系についても、各層ともに11年も上向いていた。
自粛ムードで家飲みが増えたと言われる2011年、それならば発泡酒よりも、手軽に手に入る小さな贅沢を楽しんだ人が多かったと言えるだろう。
一方で、そのような一時的な要因は関係ないとばかりに、サントリー広報部は自信をもって話してくれた。
「2012年、『ザ・プレミアム・モルツ』は対前年110%の1,656万ケースを出荷し、9年連続で伸びています。同商品は昨年3月にリニューアルし、“華やかな香り”と“深いコクと旨み”にいっそう高い評価をいただいています」
さらに、同社では新ジャンル飲料も出荷数を伸ばしているという。
「家飲み需要の拡大を受け、味わいに高い評価をいただいている『金麦』や、糖質オフの新商品『金麦〈糖質70%off〉』が好調に推移し、市場のトレンドを大きく上回っています」
様々な切り口で入れ代わる発泡酒・新ジャンル飲料は、価格が安いだけに“日常飲み”には欠かせない。でも、時にその反動は、普通のビールを超えてプレミアムビールに至る。そんな晩酌のシーンが目に浮かんでこないだろうか。
※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)や「MCR」の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。