「世界記録」に挑戦しなかった理由

廣瀬は2016年のバーティカルブルーに出場した際、100メートルという深度を思い切って申告することもできたはずだった。だが、結果的にそれをしなかった理由について、彼女は次のように語った。

「99メートルと100メートルの違いは、理論的にはほとんど変わりません。水圧や身体が受ける影響は時間にして2~3秒、ちょっと増えるかなというくらいのものです。でも、そのことを頭では分かっていても、『100メートル』という記録は心に重くのしかかっていました。『まだ今の私には届かないところだな』という思いがあって、その記録に挑むのはもう少し後に取っておこうかな、と感じたんです。翌年、新しく100という数字からスタートして、次のステージに入っていくべきだ、と自分の心と身体が言っているような感覚でしたね」

そして、2016年の大会の後、廣瀬は明確に「100メートルオーバー」を意識したのである。当時の女子のCWTの世界記録は101メートル。それを超えることを目標に設定し、「世界記録に向けてのトレーニング」を行っていく。実際の記録そのものよりも、その「未知」の場所に至るまでのプロセスこそが自分には必要だった、と彼女は言うのだった。