「水深100メートルの世界」で体験したこと

――2017年のバーティカルブルーの100メートルのダイブで、廣瀬さんはどのような世界を体験したのでしょうか。

「バハマで行われるバーティカルブルーの会場は、縦穴のブルーホールで行われます。これが他の場所、例えば外洋で行われる大会だと潮の流れがありますし、海の中も30メートル~40メートルくらいまで光が差し込んで、明るさを感じられるんです。

一方でブルーホールは潜り始めると本当に真っ暗。20メートルくらいまではうっすらと光が差していますが、そこからはどんどん闇が深くなっていって、30メートルを超えると、目を閉じても開いても変わらないような暗さになっていくんです。私たちはロープに沿って潜っていくので、そのロープに視界のフォーカスを当てています。でも、ブルーホールではロープすら見えなくなってくほどです。

そして、身体は40メートルを超えたところから、落ちていくような感覚を覚え始めます。そこはだんだんと体が沈んでいくエリアで、50メートルを超えれば、もうキックをせずに動きを止めても海の底へ、底へと落ちていくんです」

2017年のバーティカルブルーで潜水する廣瀬さん
2017年のバーティカルブルーで潜水する廣瀬さん(「HANAKO」YouTubeチャンネルより)

「体が落ちていくような感覚」とは

この「体が落ちていく感覚」を覚える「フリーフォール」の段階になると、後は集中をしながら耳抜きを続けるだけだ。そして、廣瀬は「40メートルから100メートルまでの間のその1分くらいは、まさに『本能を楽しめる時間』」だと語る。

2017年のバーティカルブルーの際も、廣瀬は深度が40メートルを超えたところでキックの動きを止めた。「それから先は『夢の中』」と彼女は表現する。

人間を含む哺乳類の自律神経反射の一つに、「潜水反射」というものがある。顔が冷たい水に触れると心拍数が低下し、血管が収縮して優先的に心臓や脳など重要な臓器に血液を送り込むようになる生理的なメカニズムである。水中での生存能力を高めるために、発達した反射機能だとされる。