減反は消費税以上に逆進的な政策

家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は、29.8%(2023年度)と40年ぶりの高水準になった。このような中でさらに米価が上がっていけば、国民生活はますます苦しくなる。

政府は財政負担を行って国民に安く医療サービスを提供している。減反は、農家に3500億円もの補助金(納税者負担)を出して供給を減らし米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。主食のコメの価格を上げることは、消費税以上に逆進的だ。

1961年から世界のコメ生産は3.5倍に増加しているのに、日本は補助金を出して4割も減少させた。食料自給率低下は当然である。戦前農林省の減反案を潰したのは陸軍省だった。減反は安全保障とは真逆の政策だ。

【図表】コメ生産量の推移(1961年=100)
出所=FAOSTATより筆者作成

減反を廃止すれば、1700万トン生産できる。国内で700万トン消費して1000万トン輸出していれば、国内の需給が増減したとしても輸出量を調整すればよいだけである。

今ではカリフォルニア米との価格差はほとんどなくなり、日本米の方が安くなる時も生じている。減反を廃止すれば価格はさらに低下し、輸出は増える。国内の消費以上に生産して輸出すれば、その作物の食料自給率は100%を超える。コメの自給率は243%となり、全体の食料自給率は60%以上に上がる。最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止によるコメの増産と輸出である。平時にはコメを輸出し、輸入途絶という危機時には輸出に回していたコメを食べるのである。今備蓄米に毎年500億円かけている。平時の輸出は、財政負担の必要がない無償の備蓄の役割を果たす。

なぜ減反は廃止できないのか

しかし、減反は廃止できない。

減反はJA農協発展の基礎だからである。高い米価でコストの高い零細な兼業農家が滞留した。かれらは農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。また、農業に関心を失ったこれらの農家が農地を宅地等に転用・売却して得た膨大な利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらした。

減反補助金を負担する納税者、高い食料価格を払う消費者、取扱量の減少で廃業した中小米卸売業者、零細農家滞留で規模拡大できない主業農家、輸入途絶時に食料供給を絶たれる国民、すべてが農政の犠牲者だ。

特に、政治力のないコメの販売業者は、農政に抗議をすることもできず、店をたたみ消えていった。JA農協という既得権益に奉仕する農林水産省は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とする日本国憲法第15条第2項に違反している。