悲願だった「TVチャンピオン」の海外展開

テレ東にとって「TVチャンピオン」の海外フォーマットセールスは悲願であった。

実は、「手先が器用選手権」は一度、海外へフォーマットセールスされている。1990年代、日本のテレビ番組が東アジアを中心に人気を集めるようになり、日本の放送局にとって海外マーケットの存在を意識するようになった時期だ。そのころ、人気を牽引したのは主に若者向けのドラマだったが、バラエティ番組にもその流れは及び、TBSの「風雲!たけし城」や「TVチャンピオン」が販売された。

当初は日本で放送されたものに各国で字幕や吹き替えなどの言語処理が加えられて放送されるという「番組販売」に近いかたちだったが、やがて番組フォーマットとしても販売されるようになった。

だが、そのとき「手先が器用選手権」は苦汁をなめている。初期のころには1円玉を立ててドミノを完成させたり、小さいサイコロをピラミッド状に積み上げたりするように、単純に指先のテクニックと精神力を競うものだったが、回数を重ねるごとに徐々に難易度が高く複雑な競技へと変わっていった。

それをそのままフォーマットセールスしたのだが、海外の人々にとっては難しすぎたのだ。あまりにもクリアできる人が少なすぎて、競技は盛り上がらなかった。

テレビ東京旧社屋
テレビ東京旧社屋(写真=Lombroso/PD-self/Wikimedia Commons

90年代の失敗の教訓、「TESAKI」の原点

そのため、今回の「TESAKI」は原点に戻って、競技自体はシンプルなものにした。1つ目の競技「ティーアップ・ビーンズ」や2つ目の競技「ローリングダイス・タワー」などはその例だ。そして手先や指先の器用さなどの「テクニック(技)」と同時に、精神力や集中力などの「メンタル面」やその挑戦者の「人間性」を浮き彫りにする工夫をした。

具体的には、なるべく個性的な挑戦者を選び、その人物のバックボーンを描き出すことで、視聴者に「共感」してもらえるように作り込んだ。競技の途中や、競技を勝ち抜いたり競技に負けてしまったりしたときに突然、本人のインタビューが入るという手法が採られているのも挑戦者の人間性を浮き彫りにするための演出である。

競技自体を単純でわかりやすくするということは、すなわち「普遍性」を強調するということだ。どこの国で作っても、誰にでもチャレンジできる内容、そしてその挑戦者を“応援できる”“応援したくなる”共感が番組を魅力的に見せる。

挑戦者は「スーパーマン」ではない。どこにでもいる“あなたの隣にいる”市井の人だ。「共感と普遍性」は深く関わりあっている。「普遍性」を持たせるためには、簡略化、あくまでもわかりやすくというのが効果的な方法だ。