小泉首相の「自民党をぶっ壊す」は脅しではなく本気だった
一方で、野党を見れば、立憲民主党の党内で評価されることを言っても、国民には受けません。むしろ、価値観が真逆です。公明党や共産党のほうがまだ普通の日本人ではないかと思われるぐらい、変なことを言っている。その公明・共産は信念が強いだけに、日本人の多数派には絶対になれない。創価学会の信者も共産党支持者も、日本の中では少数派ですから、創価学会の教義や共産主義の教え(今でも信じているのか?)を国民に言っても受けません。
国民民主党は、民社党の後継政党になります。民社党は労働組合を支持母体としながらも、より幅広い層を狙い都市インテリ層にも支持されていた政党でした。インテリは常に少数派です。
また、反対派からはポピュリストとも批判される日本維新の会でも、実は、党内で受ける話と日本国民全体に受ける話が違います。大阪の地域政党から出発したので、「大阪とそれ以外」が「党内と国民」に対して違う話を語りかけねばならない構造になります。
ところが、自民党総裁選で訴えることは衆議院や参議院の選挙で訴えることとまったく同じでよいのです。自民党支持者は「少し政治に興味がある普通の日本国民」なので、「自民党をぶっ壊す」は受けるのです。
角栄と明らかに違い、小泉の「ぶっ壊す」は本気でした。このあたり、妥協を前提とした自民党派閥政治を少数派として引っ掻き回した、三木政治(三木武夫総理大臣・第66代)に通じるものがあります。小泉は郵政民営化を目指していましたが、「自民党が改革に反対するのなら自民党をぶっ壊す。私と組みましょう」と国会で民主党に訴えていました。総理大臣自ら、与党をぶっ壊すと言って野党第一党に呼びかける。小泉は本気度が違いました。おそらく本当に脱党することも視野に入れていたと思います。もっとも、それは予備のマイナーシナリオで、メインシナリオは「逆らった奴らを追い出す」だったはずです。
小泉内閣の支持率は安定して高く、危ないときがなかった
ところで、「内閣と党の支持率の合計が50%を下回ったら政権の命運が危険水域」という説があります。青木幹雄(第64・65代内閣官房長官)の言葉とされ、「青木率」または「青木の法則」、「青木方程式」とも言われます。しかし、内閣支持率と自民党支持率は比例するもので、足す意味がありません。私はこれを「偽青木率」と呼んでいます。
「真青木率」は「国民からの支持率と党内の支持率の合計が100%を切らないうちは大丈夫」です。この二つは必ずしも一致せず、党内で支持されても世論の支持がない内閣は倒れるし、世論の支持があっても党内で四面楚歌では政権は成り立ちません。前者は竹下内閣、後者は三木内閣がよい例です。
真の青木率である党内支持率と国民支持率の合計が常に過半数を超えていたのは、小泉純一郎と池田勇人の2人だけでしょう。池田は最後の方は危なかったのですが、小泉は危ないときが一度もありませんでした。「危ない」という演出ができるぐらい危なくない余裕の政権運営でした。