徹底研究しても大谷翔平の癖は見つけられなかった

同じ体が大きいピッチャーでも大谷翔平投手(現ロサンゼルス・ドジャース)は盗塁が難しいピッチャーでした。大谷投手は日本ハムで3年目となるシーズンで開幕投手を務めたのですが、僕はそこに照準を合わせてシーズン前から彼の癖を徹底的に研究していました。でもその研究結果は「自信を持って盗塁ができない」でした。

クイックも速くて細かな動きも速い。癖を見つけることもできませんでした。あの体のサイズで盗塁ができなかったピッチャーは大谷投手ただ1人だけ。二刀流というだけでもすごいことなのに、ピッチャーとしての細かな部分まで神経が行き届いているのです。そのときも「大谷って化け物やな……」と思いましたが、そんな“ピッチャー”がメジャーに移籍したあとはホームラン王も獲っているのですから、ちょっともう次元が違いすぎてわけが分からないですね(笑)。

一回刺されたことでスイッチが入り、1試合3盗塁

牽制で刺されたことは何度かあります。2秒以上経ったら牽制が来ないはずなのに牽制が来たり、自分の中で掴んでいた癖を改善されてしまったことが理由のほとんどです。そこはもう仕方がないと割り切るしかありません。

ベースに足をつけている野球選手
写真=iStock.com/Freer Law
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研究には自信を持っていますが、とはいえ100パーセントではないですから。パーセンテージ的に確率の低いことが起こったと思うしかありません。「また新しいデータをもらったな」と気持ちを切り替えて、そのピッチャーを研究し直すだけです。

アウトになってベンチに戻っても監督、コーチから叱責を受けることはありませんでした。僕が早くから球場に来て相手ピッチャーの癖の研究をしていることを監督、コーチ、選手も知ってくれていましたから「聖澤が刺されたのなら仕方ない」そう評価してもらっていたと思います。

変な言い方ですけど、アウトになるとちょっと嬉しくなってニヤニヤしていました。「違うパターンもあったのか!」「よし! また研究して走ってやる」そんな、ちょっとワクワクする部分もありました。

ワクワクするといえば2010年のオリックス戦。1試合で三盗塁したことがあったのですが、そのときのピッチャーが木佐貫洋さん。癖を完全に把握していたので自信を持って初回に二盗を試みたのですが、このときはキャッチャーの日高剛さんの送球も良くアウトになってしまいました。

そのときもちょっとワクワクしたというか「3倍返しにしてやる」みたいなスイッチが入って、その後に三つ盗塁を決めることができました。初回に刺されてもビビらず、そのあとも盗塁を立て続けに決められたことは大きな自信になりました。