所得代替率が高い高齢者世代でも老後破産する人がいる理由

現在の高齢者は、この所得代替率が高く、「世代的に得をしている世代」とされています。ところが、年金生活者で破産したり貧困状態に陥ったりした人などが報道されることもあります。矛盾した現象に、現役世代は「自分も老後はこうなるのか」と不安を覚えます。

今、65歳以上の人口は3600万人を超えていますが、彼らの中に生活保護の受給者が飛びぬけて多いわけではありません。調べると、生活保護の対象となっている高齢者世帯は91万世帯。高齢者のいる世帯数は約2580万なので、大多数は年金破産していません。

では、老後に困窮する人はどんな人が多いのか。(1)年金未納をしていてもらう年金額が少なすぎる、(2)国民年金しかもらえない働き方だったので満額の年金でも生活が苦しい、(3)リタイア後もお金を使い過ぎてしまい貯金ゼロとなってしまった(家事がまったくできず、すべて外食とか)、といった事情が多いようにみえます。

メディアはこうした“レアケース”をクローズアップして年金制度の不安を煽ることがありますが、大事なのは所得代替率の低下とか漠然とした年金不安論とかではなく、「自分(個人)の年金はどうか」を考えるステージに移行するべきでしょう。

【図表1】生活保護の被保護者調査(令和6年4月分概数)
厚生労働省プレスリリースより

【参考】
総務省統計局「統計トピックスNo.132 1.高齢者の人口」(2022年9月18日)
厚生労働省プレスリリース(2024年7月3日)

若い人も個人ベースでは「所得代替率の高い人たち」が誕生

今回の年金財政検証結果で、多くの専門家が注目したデータがあります。それは、将来の男女および世代ごとの年金水準の予想(分布推計という資料)です。

今の時代、ほとんどの人が会社員として働きます。男女どちらもそうですし、とりわけ女性は離職せず働き続ける人、続けようとする人が増えています。女性が働き続けると、老後は「専業主婦:国民年金のみ」から「会社員:国民年金と厚生年金」と、もらえる年金の額が変化します。現役時に天引きされた分、老後の収入がぐっと増えるわけです。

資料によれば、現在65歳(1959年生まれ)の女性は、その4割強が厚生年金の期間が10年未満です。つまり、結婚退職や子育て退職後は主に専業主婦として過ごしていると思われます。一方、現在20歳(2004年生まれ)の予想では、全体の3分の2が厚生年金に30年以上加入するグループに入る可能性があります。

加入する制度としては、前者は「国民年金のみ、あるいは厚生年金が少し上乗せ」で、後者は「国民年金と厚生年金がしっかり上乗せ」という違いになるはずです。

この影響を年金額で見ると、そのインパクトが明らかになります。1959年生まれの女性の年金額のボリュームゾーンが月7万~10万円のところ(平均12.1万円)、2004年生まれの予想では、月20万円以上の年金をもらう人たちがほぼ3分の2になります(平均22.5万円)。

12万円から22万円へ。平均額が80%以上増えるなんてウソのような違いですが、女性も働く時代は女性も年金を多くもらえる。月々厚生年金保険料を払うことはしんどいですが、老後はその分豊かな年金生活ができる女性が増えるということです。

これなら、おひとりさまでもなんとかやりくりできそうですし(大卒初任給の手取りくらいはもらえるイメージ)、夫婦でそれぞれが厚生年金をもらえる家庭なら、老後も2馬力の生活となり暮らし向きは楽になるでしょう。