東京の重要犯罪はすべて解決されている

全刑法犯の1割以上が集中して発生する首都・東京において、1000件を超える重要犯罪をすべて解決するのは驚異的と言える。警視庁の元刑事部長で現警察庁長官の露木康浩は「防カメ捜査に由来する」と断言する。単に犯人に到達するだけではない。「とにかく早い」と胸を張る。

犯人が被害者や現場と面識も縁もない「流し」の場合、犯人と被害者に接点がないため地取りや聞き込みでたどるしかなく、捜査は困難となり検挙率も低かったが、現在、都市部では防犯カメラやドライブレコーダーに何らかの犯人の痕跡が残っている可能性が非常に高く、流しの犯行でも早期検挙が可能になった。

全国の警察が防犯カメラの重要性を認識した目黒区の事件で、逮捕された男は「金目当てに高級住宅地だから襲った」と供述した。テレビでたまたま目黒区の住宅街に豪邸があるのを見たのが犯行場所に選んだきっかけだった。

「流し中の流し」(捜査関係者)の犯行で、しかも遠隔地に住んでいた。若松は「防犯カメラでたどれなかったら、いまだに捜査を続けていたかもしれない」と推測する。

ただ見逃せないのは捜査の過程で伝統的な手法も徹底されていた点だ。若松はリレー捜査に加え、地取りや鑑取り、見つかった刃物の流通経路の捜査などを尽くすように指示していた。

従来の操作方法も重要性を失っていない

発生から1週間ぐらいたったころ、地取り班の捜査員から「事件当日、現場近くで犬の散歩をしていた女性が男に『うちのダックスフントはトマトを食べますよ』と話しかけられていた」との情報が上がっていた。いわき市の男の身元が割れた後、行動確認していた内偵班からは「家にダックスフントがいます。トマトをかじっています」との報告があった。地取りのネタは「裏取り」の結果、有力な状況証拠となった。

甲斐竜一朗『刑事捜査の最前線』(講談社+α新書)
甲斐竜一朗『刑事捜査の最前線』(講談社+α新書)

犯行の形態から当初、捜査幹部らのこの事件に対する見立ては「鑑」の線が強かったが、発生から2週間ぐらいたったころ、捜査本部に入っていた管理官が「流しかもしれない」と若松に進言している。

被害者の周りに事件につながるようなトラブルが見当たらなかったためだが、ここからリレー捜査をより中心にすえる捜査方針が決まった。その後、東京駅での男の前足が見つかり、身元特定へと捜査は一気に進展する。

管理官は豊富な経験に基づいて「流し」の可能性を指摘し、それが事件解決に寄与したと言える。ベテラン捜査官の経験に基づく推察は、捜査の局面を変える大きな武器になることがある。

実はリレー捜査でも、従来の捜査手法は必要不可欠な武器となっている。カメラの追跡で犯人画像が途切れれば、聞き込み捜査にシフトして目撃者を捜し、その繰り返しで犯人を追い詰める。若松は「伝統の手法の上に立った初動があくまで基本。それをおろそかにした捜査などない」と強調した。

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