警察の怠慢によって命を奪われた人々がいる。警察取材を続けてきた共同通信編集委員の甲斐竜一朗さんは「初動捜査のミスや調書の改竄、被害届の受理の先送りなどが原因で亡くなった被害者は少なくない。いままでの刑事捜査は『人を処罰するための手続き』だと捉えられてきたため、『被害に遭いそうな人たちを助ける』という発想がまったくなかった」という――。(第3回)

※本稿は、甲斐竜一朗『刑事捜査の最前線』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

両手で顔を覆う女性
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警察の怠慢でストーカーに命を奪われた女子大生

警察法は第2条で、個人の生命や身体、財産の保護のため、犯罪の予防や捜査に当たることを「警察の責務」と規定している。国民の命を守ることが最大の任務とされる。緊急時における初動捜査の的確な判断と迅速な職務執行は、被害者の救出に必要不可欠だ。初動の失態や怠慢は、取り返しがつかない事態を招きかねない。

刑法犯の認知件数が急増し、治安が危険水域に入った1999年、警察の信頼を揺るがす事件が相次いだ。同年10月初めごろ、少年3人が栃木県の会社員(19)を拉致して発生した「栃木リンチ殺人事件」。リンチを繰り返して約2カ月連れ回し、同年12月に山中で絞殺した。宇都宮地裁は栃木県警の捜査怠慢と死亡との因果関係を認めたが、のちに過失と死亡の因果関係を大幅に後退させた二審高裁判決が確定した。

「桶川ストーカー殺人事件」はストーカー規制法の契機となった。埼玉県桶川市の女子大生(21)が元交際相手の男やその兄らから中傷ビラなどの嫌がらせを受け、1999年7月、名誉毀損で上尾署に告訴したが、署員が調書を改竄かいざんするなどして捜査を怠った。女子大生は同年10月に刺殺され、両親が起こした民事訴訟で、さいたま地裁は捜査怠慢を認めた。