オウム事件で得た教訓

1995年に大阪で起きたオウム真理教信者による大学生拉致事件。宗教団体への強制捜査を巡っては、信仰や親子問題を理由に「警察の勇み足」「もっと慎重に対処すべきだった」「オウム側に『宗教弾圧だ』との口実を与えた」などと非難も出た。

それでも捜索を指揮した川本は言う。「違法と批判されても、俺はやかましいと言えた。被害者の生命というのは第一や。批判を恐れて法的な判断を重視し、二の足を踏む指揮官がいるが、被害者の救出こそが最優先。これは絶対に間違いない」

大学生は救出されなければ翌3月20日、教団拠点の山梨県上九一色村(当時)に連れて行かれることになっていた。その日、東京では中央省庁が集まる営団地下鉄(現・東京メトロ)霞ケ関駅を通る3路線5車両に猛毒のサリンがまかれ、2020年に闘病の末亡くなった女性を含め14人が死亡、6000人以上が重軽傷を負う地下鉄サリン事件が発生した。

捜査するのが難しい「人安事案」

ストーカーやドメスティックバイオレンス(DV)などの「人身安全関連(人安)事案」を巡る捜査は、特に迅速で的確な初動が求められる。警視庁の幹部は「人安事案の大原則は被害者の命を守ること。一瞬たりとも気が抜けない」と対応の難しさを口にする。

警察官とパトカー
写真=iStock.com/akiyoko
※写真はイメージです

警視庁勝どき庁舎(東京都中央区)にある「人身安全関連事案総合対策本部」(2020年2月現在)。対象事案は首都・東京で起きる男女間トラブルやストーカー、DV、児童・高齢者虐待、特異行方不明者と幅広い。200人を超えるスタッフが24時間態勢で目を光らせ、被害を未然に防ぐため奔走している。

相談してくる側に危機感が低かったり、危険性を感じていなかったりすることも多く、対策本部は相談を受ける現場の各警察署に対して「とにかく命を守ること。いま発生していなくても今後発生する可能性がある危機に気付くのは警察しかいない」との基本認識を徹底させているという。

相談者によっては「(元交際相手などの加害者について)悪い人ではない。警察に知っていてもらうだけでいい」などと被害届の提出に消極的になりがちなため、暴行、傷害、脅迫の疑いがあるようなケースでは生活安全部門だけではなく刑事部門の捜査員も必ず立ち会うことになっている。事件性が濃い場合は、将来発展する恐れがある危険性を相談者に認識してもらい、被害届の提出を求めるという。